原口晋太郎
(経歴)
株式会社ゼンリンフューチャーパートナーズ プリンシパル
2007年に株式会社ゼンリンに入社。コーポレート部門で主に経理・財務・税務業務に従事。2021年より、株式会社ゼンリンフューチャーパートナーズに出向となり、スタートアップへの投資及び支援業務へ取り組む。スマートシティ、防災、AI等といった地図情報を活かして社会課題の解決につながる投資領域を担当。
ZFPの親会社にあたる、ゼンリンの主力事業は地図や地図に関わるデータベースと、GIS(地理情報システム)の販売です。カーナビ向けの地図では国内トップシェアを持っています。
ゼンリンが持っている地図データは見た目にはわからない属性情報を保有しており、精度の高い情報を更新し続けていることが強みです。
例えば、道路であれば、道幅やトンネルが通れる車両の高さまで、建物であれば入り口の場所、車両用の出入り口の場所や、建物の階数や現在のテナント、など、配送計画や出店場所の検討から都市開発計画まで、お客様は民間企業から自治体・官公庁まで、様々な用途に必要となるより具体的で詳細な情報を日本全国規模で網羅したデータベースを保有しています。これらの情報は、新しい道やビルができたり、テナントが変わったりすることで日々変わっていきますが、人と車両でデータ収集しながら毎日更新し、DBに反映しています。
長年地図データを取り扱う中で、こういった事業基盤は確立された一方で、インターネットや、スマートフォンの普及に伴い無料地図サービスの利用が急速に広まり、そのクオリティも日々高まってきている。
これまでの強みを活かしながら、新しい付加価値を生み出すために、オープンイノベーションを実現していく必要性がある。その手段として、投資活動を通したスタートアップとの協業を志向し、CVC活動を担うZFPを設立するに至りました。
ZFPはゼンリンがシングルLPを務めるCVCの運営会社で、2021年1月に設立され、同年4月から、私を含む実務メンバーが参画しました。現在まで19社への投資を実行しています。
投資スタイルとしてはフォロー投資が多いですね。
スタートアップとの協業で事業開発を進めることを考えると、プロダクトやサービスが出来上がっているミドル・レイターステージの方が投資対象になりやすいと思います。
プロダクトやサービスを磨き込みかけていくアーリー段階のスタートアップとは、いきなり投資をするのではなく、ゼンリンの持つ地図データなどのアセットを提供することで事業開発を行うというように事業面での連携から入るケースもあります。お互いがwin-winになれることが大切ですので、「投資ありき」ではないスキームも柔軟に用意する発想で考えています。
事業開発など、事業面での連携についてお互い意識しながら進めていけるように、取締役会や、経営会議などの主要会議にはオブザーバーとして参加させていただくことをお願いしています。
現在、投資業務を担当している6名のうち、3名がCVC業務立ち上げのために外部から参画した金融出身社員、私を含む3名がゼンリン出向社員です。事業部との連携は、ゼンリン出向社員に期待されていますが、金融出身社員もゼンリンの業務について急速に理解を深めており、持ち前の産業知見や企業経営に関する知見により事業開発についても積極的に関与しています。わたしを含めたゼンリン出向社員も毎日多くのことを学んでいます。ゼンリン出向社員と金融出身社員との連携により、CVCとしての組織力が高まってきていると思います。
投資委員会の前に、案件紹介の会議体があるのですが、この会議にはゼンリンから常務3名が参加しており、事業面でのフィードバックを直接受けられる座組みになっています。フィードバックを受けてさらに突っ込んで詰めていくべき要素があれば、投資委員会にかける前に、スタートアップと議論をしながら可能性を探ります。ゼンリンの役員のサポートによって事業との連携がスムーズというのが当社CVCの強みにもなっています。
案件会議で、事業シナジーが期待できると、該当部署にコンタクトし事業連携の提案を行い、投資にあたってのエクイティストーリーを描けるかについて、事業部長にコンタクトし、意見交換をしながら共同検討を進めていきます。
投資検討にかかる期間はおおよそ3ヶ月程度。案件会議で一発OKになることはまずなく、そこで出た宿題を、スタートアップ側なり事業部側でクリアした上で、再度案件会議にかけ、そこでOKが出れば投資委員会で承認を受けるというフローになっています。
また、事業部サイドからスタートアップを紹介されるケースも多く、19社のうち、7社が事業部の紹介から投資が決まりました。この場合、すでに具体的な事業連携がイメージできているため、比較的スピーディに検討が進む傾向がありますね。
すぐに協業を具体的に開始できるスタートアップへの投資をシナジーAと呼んでおり、事業部サイドがシナジーの実現に責任を受け持ちます。一方、すぐには具体的な協業はないものの、将来の協業がイメージできるスタートアップへの投資はシナジーBとし、CVCキャピタリストが協業テーマが具体化するまでコミュニケーションを行います。
事業開発を目的とした投資の場合は、事業部側の納得が最も大切になりますので、丁寧にコミュニケーションを重ねることになりますね。この1年半、事業開発に新たな視点を提示することができ事業側とのコミュニケーションがスムーズになってきました。事業サイドからスタートアップとの連携に対する関心の高まりを感じる機会も増えてきました。
例えば、ゼンリンのデータベースが保有している、地図情報、施設情報などを提供できます。
ゼンリンのDBでは、全国の建物に独自にIDを割り振っており、テナントや、階数などの詳細な情報が紐づいています。こういった情報を活用して何か価値を生み出せるようなスタートアップだとメリットを見出せるのではないでしょうか。これらのデータを独自で収集することは困難だと思いますし、仮に可能だとしても、当社と組む方がコスト面を考えてもメリットが大きいのではと思います。
具体的にどういった協業仮説で投資につながっているのか、といった具体的な事例をこの場で紹介するのは難しいですが、投資先ソーシングにおいてもスタートアップからお声がけいただくケースが多く、当社の地図データについてのニーズは高いのではと感じています。
業務開始以来、年間10件ペースで投資が進んでいる理由もここにあるのではと思っています。
キャピタリスト各々がそれぞれ案件を持って動いています。
投資領域については、個人的な関心はスマートシティや防災にありますが、ゼンリンが得意とする領域はほかにもありますので、スタートアップの皆様とどのような連携ができるか、最初から拘りを持たずにいろいろなお話を聞いてみたいと思います。
私は、幼少期から大学まで福岡で、就職先も地元企業を考えていました。大学では簿記の資格も取っていたので、金融系を中心に就職活動をしていたのですが、北九州に本社がありながら、日本全国規模の仕事ができるゼンリンに魅力を感じ、入社しました。
ゼンリンに入社した後は、上場企業の経理業務を経験しました。決算、有価証券報告書、決算短信の作成などの実務を担当し、財務、税務部署に一貫して従事してきました。特に決算の仕事は毎回大変でしたね。
開示文書を完成するのに、複数部署の確認が必要ですし、会計士などの外部専門家とのすり合わせもあります。当初は、業務についていくのがやっとでしたね。
気持ちに余裕が出てきて、俯瞰してみれるようになったのが5年経ったときくらいからでした。会社全体のお金の流れが把握できると、担当している業務の意義や面白さについても理解できるようになっていきました。
管理系の仕事に勤しむ一方で、新しいビジネスモデルについて考えることも好きで、社内で開催される新規事業のアイデア募集にも積極的に参加していました。
ZFPで、CVC業務を始めることになり、そのメンバーに選ばれたときは嬉しかったですね。なぜ自分が選ばれたのかについては、わかりませんが、事業の数値を見れる部分と、新規性のある事業について前向きな姿勢を買ってもらえたのかもしれないと思っています。
これまでの社会人生活では見たことのなかった世界、というのが最初の印象でした。
ゼンリンはすでに上場し、組織としても成熟している企業。入社以来そういった企業のキャッシュフローや、数値管理に従事してきたわけですが、スタートアップ企業は、営業キャッシュフローが十分に出てなく、利益も赤字なのが当たり前。それまでの経験や、常識とのギャップは大きいですし、そういった状況のなかで、挑戦を続けているスタートアップのスタンスには刺激を受けますね。また、そのような流動的な状況の中で投資を決定していく仕事はすごく勉強になっています。
ZFPとして、意義のある投資活動を続けるためにも、財務リターンをしっかり確保することは意識していきたいと思っています。エグジットした企業はまだありませんが、財務リターンを確保できたということは、投資先が成長し、価値が高まったことを意味しますし、あたり前ですが重要です。
事業連携を通じた価値向上に貢献するために、ゼンリンの都合を押し付けるのでなく、スタートアップ側の視点にたちながら、新しい価値提供を実現できるような事例を一つでも多くつくっていきたい。
個人的には、社会を変えよう、暮らしを変えようという、志の高いスタートアップの夢を応援していきたいと思っています。
また、ZPFで得たCVC業務の経験、刺激や、先進的な取り組みで得た知見、学びなどをゼンリン側にも還元していくことも今後の目標です。
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