CVCだからこそ、グローバルに投資を考えるべき

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インタビュー
海老原 秀幸

PKSHA Capital

新卒で入ったマーケティング会社を経て2005年 シーエー・キャピタル (現サイバーエージェント・キャピタル)に入社。投資先である飲食店メディア運営企業に出向し、戦略立案から業務改善等のハンズオン業務に従事。その後、日本国内にてアーリーステージの企業を中心に20社以上の投資実行及び投資先の支援活動を経験。2012年10月からは韓国に駐在し、韓国法人代表として拠点・ファンドの立上げ〜韓国企業への投資活動及び経営・グローバル展開の支援業務に従事。

2017年 ハイブリット・ベンチャーズ設立、2019年5月よりPKSHA Capitalに加わり、PKSHA SPARX Algorithm Fundでのベンチャー投資活動に従事する。

2016年、Global Corporate Venturing Rising Star Awards 第7位

社長の代わりに経営できるよう事業と経営を理解すべき

- 海老原さんはキャピタリストとしての長いキャリアをお持ちですが、PKSHAのパートナーにいたる経緯、ご経歴について教えていただけますか 

もともとVCをやりたくてCAエージェント(CA)を受けたわけではなくて、新規事業に携わりたい気持ちが大きかったんです。前職では、マーケティング、プロモーション、新規事業の企画書を作成する仕事で、企画業務だけをしている中で実際の事業立上げ、実行までをしてみたいと思うようになりました。

その思いを、当時のCAの取締役で面接官だった現・X Tech代表の西條さんにぶつけたところ、「それやっていいよ」となり、当時CAが買収した会社で飲食店の予約サイト事業を運営する会社に出向することになりました。CAはその会社を買収したものの、本格的な事業構築はこれからという状態だったのです。CAに入社したもののDay1からメインミッションは飲食店予約事業の立ち上げとなりました(笑)。

プロパー社長の下で約2年間、飛び込み営業、マーケティング、資金調達など何でもやりましたね。その会社を大手事業会社に売却し、所属していたCAの金融事業部に戻ることになりました。

 

- ここまでは、ベンチャーキャピタリストというよりは、ベンチャーのCOO兼CFOという感じですね

正直、このタイミングでCAを離れることも考えました。この間、叩き上げの社長の下で泥臭い仕事をやり、実務経験を積んだ自負はあったのですが、その反動で、「ブレインワークをもっとやりたい」というコンサル思考になり、転職活動をしたりもしていました。

ただ、私が出向している2年間に自分の所属元であるCAの金融事業部事門がVC投資をする専業とするベンチャーキャピタルとして分社化されており(現在のサイバーエージェント・キャピタル。当時はサイバーエージェント・ベンチャーズ(以下CAV))、周囲の方々に相談したところ、「VCの仕事は投資の意思決定というブレインワークと、事業構築を一緒にやるという両面ができる仕事で、コンサルファーム出身者が就きたいと思うような仕事なのでは」と助言を貰い、「であれば、もう少しここにいても勉強になることもありそうだ」という軽い気持ちでベンチャー投資に携わることになりました。

 

- キャリア上、ここは大きな分かれ目ですね。
その後、国内向けに6年、さらに韓国拠点の代表としての4年間、VC投資としてキャリアを積まれることになったわけで、

当時のCAVの育成方針として、「自分が関与することで業績を上げられない会社には投資しない」「キャピタリストは社長に代わり経営ができる位に事業と経営を理解しておくべきである」という明確な方針がありました。今考えると、一般的なVCとは異なる発想だとは思いますが、その後、多数の独立キャピタリストを輩出した事実をみると、この方針は、「キャピタリストを育成する」という意味でも正しかったのではと思います。

- なるほど、その他、サイバーエージェント・ベンチャーズはどんな思想や特徴のあるチームだったんでしょう?

まず、VCチームの評価は担当している支援先の目標KPIと紐づいてました。例えばMAU50万人達成が支援先のKPIだとすると、そこに到達できたかどうかが自分の評価に大きく関わります。議決権でいうとせいぜい5~15%しか持っていないのですが、だから言うことを聞いてくれませんというのは言い訳にはなりません。社長が我々の意向を真剣に検討して、動いてくれないのであれば、動いてくれるまでコミュニケーションを取るのもキャピタリストの仕事なんだと。根底に、「ベンチャーキャピタルの仕事は事業を作ることである」という思想があり、価値観が明確にあったと思います。「投資をする」という金融的見方ではなくて、完全に「事業を作る」というコンセプトで運営されていました。

デューディリジェンス(DD)にしても、事業DDに関しては将来的な見通しやKPIの推移、実現可能性などをかなり細かく精査し、必要に応じてCAグループの専門部署等にヒアリングを行うなどしていましたが、財務&法務のDDは一般的なスコープで問題ない、というイメージでした。

ベースとして起業家の壁打ちや具体的な改善案の提案や実行サポートなど、実際の事業構築に貢献することは当然で、事業のピボットなど事業戦略について深い議論をし、丸一日かけて社長や経営陣を説得をしていくという場面も少なくなかったですね。そうはいっても、私が入社後2年間やったような、投資先に出向して事業立ち上げに身を投じる、というところまで深く関わることはその後ほとんどなかったですね。ネット事業に特化していたとはいえ、一人20社くらいを担当していましたので。

 

- 事業コミットする、という思想、姿勢は理解できますが、
事業ピボットしてでも事業創造にコミットするとなると、他株主から「物言い」などは付かなかったですが?

そういう場面は基本なかったですね。今から10年以上前だったということもあり、スタートアップ事業と株主の向き合い方について「株主の平等性から、こうであるべきだ」という考えはあまりなかったのではと思います。インターネット業界の尖兵でメガベンチャーになりつつあるCAの若手キャピタリストが何か一生懸命やっているな、というような見え方だったかもしれませんね、、(苦笑)

せいぜい15%くらいの株主で個人としてそれほど経験のない若手の担当者が、リスクを取って創業した社長に「事業を一緒に作っていきましょう」「事業ピボットを検討してください」みたいなことを堂々と言う事は、今の感覚だと違和感があるかもしれませんね。でも当時は、僕らはそういうものだと思っており、業務として精一杯やっていた、ということだと思います。

- VCというスキームを使っている以上、「投資リターンを上げる」という命題はあると思います。事業へコミットし、そのためにリソースを割く、という姿勢の折り合いなり関係はどうだったのでしょうか。

リターンという観点で言えば、手間がかからない支援先の方が良かったですね。当然ではありますが(笑)。なので、事業の現場に降りていって、一緒に作っていくという行為は、その時の「経済合理性」という観点では、あまり割りに合わないものだったんだろうとは思います。ただ、キャピタリストを育成していく(自分がキャピタリストとして成長していく)、という観点では必要で有効なプロセスだったんだろうと思うんですよね。

同質性が高く、市場としても天井が見えている日本市場だけに拘る必要はない

- 日本での6年の後、韓国で4年間、投資活動を牽引されました。そこで得た経験、発見。韓国と日本の違いなどについて、聞かせてもらえますか。

投資の意思決定をしていくにあたって、2か国以上をカバーした経験があることはすごく活きていると思います。どの国も、独特の風習や価値観があって、日本だけ見ていると日本の特殊さに紐づいているモノゴトの見方や判断軸にどうしても捉われてしまう。2つ以上の視点があると、お互いを照らし合わせて考えることができるし、単純に他の国での事例を知っているというのは、投資検討において有益だと思いますね。

また、これからの時代、日本の事だけを理解していれば良いという時代では無いと思いますし、VC投資事業は海外展開しようと思えば、しやすい事業だと思っているので、日本のVCやCVCはもっと海外投資に積極的になるべきだと思います。

特にCVCは企業の戦略的な新規事業開発やインテリジェンス部門を兼ねているケースが多いと思うので、同質性が高く、市場としても天井が見えている日本市場だけに拘る必要はないと思います。

 

- 韓国のスタートアップと日本の違いについて、言葉で表現するとどういうものになりますか?

最初からグローバルを視野に入れていることと、意思決定などあらゆるスピードが速い、この2つですね。

CAにいたころ、韓国のベンチャーがDay1から米国や中国のマーケットを考えていることに、「何故、リソースを分散させるのか?非効率ではないか」と感じていましたが、10年以上経って、グローバルビジネスにおいては韓国企業の優位性が明確になりました。最近はドラマとかコンテンツの世界でも韓国優位が当たり前になっているのと同じですね。韓国は国内市場が限定的なので、グローバルに事業展開をする、という考え方が当たり前にある、ということは感じます。

- そんなグローバルマーケットを視野に入れた韓国ベンチャーを支援する立場になって、日本での経験が活きたところ、活きなかったところ、などあったと思いますが

日本企業のスタンダードな事業の管理方法や発想をそのまま適用しようとしても難しく、韓国企業の考えややり方を理解し、極力そちらに合わせるように心掛けました。よく言われることですが、日本は「減点主義」というか、理論的な完璧さを求めてくる感じはあるんですよね。契約書一つとっても、万が一のことを考えて、それが起きたときの対処までシミュレートした条項などを議論する。韓国の場合、万が一しか起こらないことなら、そこは別にいいのではないか、と。多少のマイナスなら気にせずに、先に進む。そうなるとアグレッシブさに違いが出てきます。実際は万が一ではなく百が一くらいで、問題が起きたりするんですけど(笑)

他方で、どれくらいのマーケットがあるのか、トレンドはどうなのか?国特有の規制や商習慣、そしてビジネスモデルの難易度等を投資検討を通して精査し、あとは経営者やそのチームが本当にやりきってくれるのか、信頼できるかを見極めていく、という点は、投資先の国は違っても変わらないですね。 

- 韓国のスタートアップは、資金調達先も海外投資家からのポーションが大きいのでしょうか?

感覚値ですが、そこはせいぜい20%くらいじゃないかなと思います。それでも日本よりは大きいですね。トップティアVC(ソフトバンク・ベンチャーズ アジア、アルトスベンチャーズ等)は現地化している外資VCなので、韓国内で調達していたとしても、お金の出処は海外、というのは見かけ以上に大きいかもしれません。 

- サイバーエージェント・ベンチャーズコリアでを経て、PKSHA Capitalのパートナーになったのはどのような経緯だったのでしょうか 

CAVでの10年間のベンチャー投資の経験を踏まえて、独立しようかなと思ったんです。意思決定の裁量権と、インセンティブを変えたいという思いもあって。CA時代は投資が成功してもそれに紐づくインセンティブは極めて限定的でした。日本にいたときは、「そのようなものだろう」という漠然とした考えしかなく、すごく不満があったわけではないです。CAは独自の価値観や世界観のある企業ですし、自分も共鳴してました。ただ、韓国での4年間を経て、日本に帰ってくるときは、海外のVCプレイヤーを含め視野が広がって、自分の知見で勝負したくなってました。

最初は独立系VCを作るべく資金調達の営業を回っている中で、PKSHA Technology Capitalで組成するファンド運営に参画させて頂くという話に発展していきました。

PKSHAと話をしている中で、スタートアップ企業には技術的な知見がある人材が不足しており、技術的なアドバイスを求めて、様々なスタートアップ企業から出資や業務提携の打診があるということでした。結果的に、PKSHA Technology Capitalと上場株式の運用で長年の実績のあるSPARX グループが共同GPを務め、複数社のLPを募る形で日本と中国、韓国をカバーするファンドとしてPKSHA SPARX アルゴリズム1号が2019年に立ち上がり、私はファンド全体の管理及び韓国と日本の投資実務をカバーする役割を担うことになりました。立ち上がって約3年ですが、ようやく日本企業の上場実績が1社できました。 

「事業開発」のために「投資」を選択している企業と「ゼロイチ」にも挑戦したい

- PKSHA Capitalでおこなっている投資業務の概要について教えていただけますか?

支援先へのバリューアップやDDではPKSHA本体と連携しつつも、あくまで独立したファンドとしてファイナンシャルリターンを追求する投資スタイルです。主にシード、プレシリーズA、シリーズAをメインとしており、AIを活用することで伸びるであろう事業に投資をしています。

現在のファンドはSPARXとの共同GPで運営しており、10社未満の複数社外部LPに出資頂いているファンドとなります。

リード−、フォローには特に拘りは無く、ファンドリターン最大化の為の投資方針です。その結果としてリード投資が多くなっている傾向にあります。 

- スタートアップ企業に向けてどういった支援をされてらっしゃいますか

ファンドとしてはPKSHA本体が持つ技術的なアドバイスや支援を差別性にしています。ケース・バイ・ケースですがPKSHA本体のエンジニアがテンポラリーでプロジェクトに入り、アルゴリズム実装までをサポートするといった支援も可能です。それに加えて、キャピタリスト個々の経験値を基に、経験や知見に応じたケーススタディの共有や経営者の壁打ち相手の役割なども積極的にしておりますし、資金調達に際してのアドバイスや支援(VCや事業会社の紹介)は積極的にしています。

- ベンチャー企業の株主の役割、協同出資などの協力関係の可能性などについて、海老原さんのお考えを教えてください 

様々な投資家の方々とご一緒することで、VCとしてもそうですが、個人のキャピタリストとしての知見が広がると考えております。また、お互いに強みが違うと思いますので、是非様々な方々と共同で投資していきたく思っています。

「事業開発」という目的の手段として「投資」を選択している事業会社もいると思いますが、そういった会社と投資を通じて「ゼロイチ」をやる、という試みもやってみたいですね。海外から事業モデルをもってきて、その事業の日本版をやる経営者なりチームを事業会社から出してもらう、といった組み方も、今後出てくるのではと思います。

- 事業会社の中での投資活動の醍醐味や課題についてはどうお考えでしょうか

前職のCAVは、事業会社系CVCでした。そこで感じたCVCのメリットはベンチャー企業や起業家と会える、スタートアップだけでなく本社からの情報や事業会社の横の繋がりによる情報など幅広い情報に触れられるということです。企業のブランド、クレジットを使ってソーシングできるので、投資交渉にもレバレッジが利く場面も少なくないはず。

事業面の話が出来ることで、起業家や支援先のチームとも距離が近くなりやすかったと経験的に思います。意識次第かもしれませんが、事業を一緒に作る過程に関わり、伴走できうるという意味で、CVCの仕事は他では得られない経験ができるのではと思います。既述ですが、経済合理性の損得勘定でいうと、あまり投資先に関わらない方が良いということになるんでしょうが、コミットして一緒に関わった方が、得られる経験や持てる引き出しは大きく変わってくるし、喜びは大きくなりますよね。

「事業会社本体との連携」や、「周辺分野の事業開発」をテーマに掲げられるケースも最近多いと思いますが、それを“大命題”のように捉えてしまうと、難しい部分も出てくると思います。「事業を作る」というコンセプトで投資活動をしていたCAVでも、CA本体との事業連携についてはほぼ無視してました。もちろん、うまくハマるケースがないわけではないですが、そもそもそんな投資機会に巡り合うことは非常にレアだと思います。

未来を創造しようとしている妄想癖と実現力の強い起業家と出会いたい 

- グローバルの視点で見たときに、日本のマーケットや企業がどのように見えているかについて、シェアいただけますか

日本国内のマーケットはそうはいっても大きく、魅力的なので、今後もそれなりの会社がそれなりに出てくるだろうとは思います。ただ、グローバルでスケールできる会社が出てくるかというと、現在のインターネットサービスがベースとなっている事業に限って言うと、なかなか難しいだろうという感覚です。それは仕方がないかなぁという印象ですね。その部分は外から変えてもらった方がよいんじゃないか、と思ってます。外資系企業やファンドが日本のベンチャーを買収する、ということですね。

例えば、韓国企業がゼロから日本マーケットに参入するのはかなり大変ですが、M&Aによってマーケットにダイレクトにアクセスできるようになる。そういう相談も足元で増えています。日本市場へのエントリーチケットなので、別にうまくいっている企業である必要はない、というスタンスですね。ネット領域では、日本企業は外資の草刈り場的な位置づけになりつつあると思うんです。 

- 資生堂、家庭教師のトライ、大正製薬など、名だたるナショナルブランドがこの1-2年で外資系プライベートエクイティの傘下に入っています。

そうですね。一方で、シルバーエコノミーと言われる市場や、製造業関連のTech分野は、アメリカ、中国、韓国、その他のアジア地域で見ても、追いつけない環境やナレッジの蓄積があるので、そのマーケットで勝った日本企業がグローバルに仕掛けるのは面白いかもしれないですね。

- 今後、出会って出資していきたい、スタートアップや起業家のイメージはありますか? 

私自身、VC業務に携わっていることの最大のインセンティブは知的好奇心です。新しいビジネスモデルとの出会いや、このプランがうまくいくのかどうか、うまく生かすためのアクションプランを一緒に考え、実行し、効果検証していける作業、そして企業が成長していく姿を見ることは堪らないですね。先述した西條さんやCAVの代表だった田島さん(現ジェネシアベンチャーズ代表)の考えに多大な影響を受けていると思います。

そういう意味で、経営者個人に対する好き嫌いは、良くも悪くもあまりありません。とはいえ人間的にパートナーシップを結んでいくことにはなるので、志と熱量が高い方、来る未来へのパースペクティブを持ち、その未来に即した事業を創造しようとしている妄想癖とその実現力の強い起業家と出会いたいですね。

 

- 投資先の保有方針、Exitの考え方など今後のビジョンについて聞いても良いでしょうか? 

ファンドとしては一番ファンドリターンを最大化できるタイミングで売却するということになりますので、会社毎にその都度判断していくことになります。ただ、我々は上場企業の株式運用のように、株式商品に投資しているという側面だけではなく、起業家の方々のヴィジョンや情熱に投資している面も大きいので、起業家や支援先の意向やVCに求める役割も考慮した上で適切なタイミングでVCと支援先という関係性を卒業していくべきだと思っています。

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