投資業務の醍醐味はダイレクトなコミュニケーション。事業会社によるスタートアップ投資の未来。

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インタビュー
遠藤 哲也

株式会社テレビ東京コミュニケーションズメディア事業開発本部 ビジネスデザイン部 ビジネスプロデューサー 兼 テレビ東京

1982年生まれ。大学卒業後、西友商事にてリテール営業を4年間経験。金融業界での経験を経て、2009年 DMM.comに移り、事業部長としてデジタルへの転換を志向する同社で4事業を牽引。Anime、Game事業の立ち上げや、戦略的M&Aの実行PMIを主導。2016年 コンサルティングファームの Egg Forwardに移り、営業組織、組織戦略の構築支援に従事。2社のファウンダーも経験。現在はTXCOMにおいて、アライアンス・投資チームのマネージャー。メディア領域のアップデートをMissionとし、様々な企業との事業創出を行う。また2社の戦略設計をCSOの立場で行う。

 

- テレビ東京グループで、投資業務を担当されるにいたるまでの経緯・経歴について教えていただけますか?

大学卒業してから、金融、商社、メガベンチャー、戦略コンサル、起業を経て、今の仕事に就いています。知人からも変わったキャリアと言われます(笑)

振り返ったときの、大きな転機はDMMグループと、Egg Forwardへのキャリアチェンジだったように思いますね。

私がジョインした2009年、DMMグループは配信ビジネスが大きく成功しはじめたころで、売上&利益を急成長させていて、キャッシュも潤沢に積みあがり始めたころでした。その一方で、新しい成長を担う人材の採用には苦戦していたように感じます。 

自分の目には、そういう環境にあるDMMグループに今参画するのはチャンスとして映りました。入社時の期待は、セールスの拡大、販売戦略の構築と実行という領域だったビジネスが、金融でのセールス経験を踏まえ、効率性や営業の考え方を導入したことで、速い段階でDVDセールスにおいて良い結果を出すことが出来ました。常にトップだったと思います。そこで実績を上げたことが経営陣の目に留まり、事業部長になりました。勢いのある会社だったので、昇格のスピードはすごく速かったですね。そして、今度は、M&AやPMI(買収後の経営統合・管理)という業務も運良くチャレンジさせて頂くことになりました。

- 2000年代の日本ではM&Aはまだそれほど一般的ではなかった中で、投資銀行や投資ファンドのバックグランドでない中、M&A戦略を仕切るとういう経験は珍しいと思います。

そうなんです。そういう意味では恵まれていたとは思いますよ。当時は自分も経営陣に負けないくらいイケイケだったので、M&Aなんてどうやっていいかわからず、本屋に走って、勉強しながらだったんですが、「やります!」「やれます!!」「やってみせます!!」という感じで、自信満々にトップにも言ってました。他にやれる人もいないということもあったんでしょうが、それを信じて、任せてくれる雰囲気でした。 

- 実際にどういうM&Aを経験されたんですか?

最初に買収したのはPCゲームや、ドラマCDの流通卸の会社でした。当時売上規模は20-30億円くらいでしたね。

なぜ買収を仕掛けたのかというと、当時、DVDやCD、PCゲームの最大手販売チャネルだった企業が、アカウント開設ができない状況にあったんですよ。なので、最大手と太いパイプをもっている同社を傘下に収めることで、そのチャネルを取りにいきました。

当時は、アナログとデジタルが同居しつつも、デジタルへの移行が着実に加速的に進んでいて、卸のような業態が縮小していくことは見えていた。小さくはないながらも個人資本でやっている企業は将来を心配していたんです。そこを戦略的に考え、最大手との取引を持つ中規模卸業態をいくつかピックアップし、そのどれか一つ手中に収める、という競合買収でした。 

その後、デジタルへの転換が加速していく中でAnimeやGame事業の立ち上げを行い、一番多いときは4つの事業の兼務する事業部長となっていました。 

- 日本の事業会社において成功事例が少なかった頃のM&A、PMIなどを担われ、新規事業を牽引するまでになっていた遠藤さんが、キャリアチェンジを考えるに至ったのはどういう経緯がありましたか? 

DMMグループに入社して5年が経とうとしている頃、若くして、様々な経験を実地でさせてもらい、経験値が積みあがっていく感覚はあったんですが、その経験をどのように活かしていこうかと考えていました。当時、グロービス経営大学院にも通っていたのですが、実務で経験してきた企業戦略や、ファイナンススキルを、アカデミックに捉えなおしたいというのと、「創造と変革を志す」という、長期的な視点で何をやるべきかを考えたい、と思ってたんですね。

DMMグループで抜擢をしてもらえ、重要な仕事を任されて、やりがいは大きく感じていたんですが、それでも私はあくまで新参者だと思っていて、トップを含め勃興期からずっと支えてきた方たち同士の、厚い信頼の輪に入るのは、なかなか難しいんじゃないか、と感じていました。

30を過ぎて、DMMである程度やり切ったという自信と共に、次にどういうキャリアを描くか考えて、EggForwardという戦略コンサルティングファームに参画することにしました。まだメンバーが6-7人しかいない中で、名だたる企業から受注をしていた同社ではプロフェッショナルなコンサルタントの能力の高さとともに、激務をいとわない仕事観を目の当たりにすることになりました。移動はタクシーしか使わないが、それは、移動中も資料作成や打ち合わせ後のネクストアクションを続けるため、そういう姿は当時の自分にはショッキングでもありました。一緒に働いているメンバーは年下とか関係なく、本当に優秀でしたよ。毎日、厳しくも学ぶことが多い日々でしたね。

数年は経験を積めたらと漠然と思っていたものの、ある日心身ともについていくのが難しいなと思うようになり、早い段階で離れることになりました。短い期間ではありましたが、グローバルで通用する戦略コンサルの文化や考え方を身をもって体感できたことは、自分の視野、発想の可動域のようなものが大きく広がったと感じます。 

- EggForwardを離れた後に、テレビ東京コミュニケーションズへの参画になったのでしょうか?

テレビ東京グループにジョインするまでに、2社連続で会社を立上げてそれをバイアウト(事業売却)するということも経験しました。前職で、物流からWEBサイトまでのEコマースを構造的に理解していたことと、実務を動かすためには見方によっては泥臭い、ややダーティな部分からも逃げずに対処することも身に着けていたことは、会社立ち上げ時の成長を底上げすることにつながりました。その会社をバイアウトし、取締役を退任する時期に、テレビ東京グループから知人を通じて人材採用のお話を頂きました。

会社の事業領域をデジタルシフトしていく必要性があるなか、DX化をリードでき、モノゴトを戦略的に捉え、コンサルティング経験もある人材を探しているという話でした。話を聞いて、そんな人間なかなかいないだろうなと思いましたし、実際、半年ほど探しましたが、なかなか良い人材を推薦できませんでした。その当時、私もやりたい事が明確になかったため、TV業界の置かれている立場や、社会のこれからについて考えたとき、新しいチャンスと捉え、テレビ東京グループへ自ら立候補してジョインすることにしました。

-  投資業務の概要について教えていただけますか?

テレビ東京コミュニケーションズは、テレビ東京のグループの中にあってクロスメディアや動画配信、IP事業などを手がける企業です。2019年からエンターテイメント領域のスタートアップと連携し、新しい事業や価値を創出することを目的に投資活動をはじめました。

投資領域は日本国内オンリーで、エンターテインメント領域に特化しています。投資エンティティを立てるのではなく、プリンシパル投資の形式ですね。マイノリティ出資、リードを取ってのマジョリティ出資など、出資先企業毎に違います。投資金額は数千万円から検討することが多く、現在5社に出資しています。

出資時の主な判断軸は、(1)経営者、(2)事業シナジー含めてのマーケットの成長性、(3)優位性の3つです。

初面談から出資までは大体3〜4カ月程度ですね。現場担当と私が連携しながら、対象企業の事業領域&モデルと、弊社の期待領域との相性を見極めます。ビジネスゲイン&キャピタルゲインが期待できると判断した場合は、出資計画書→役員提案&議論→デューデリジェンス→グループ内の関係会議での承認→最終チェック→出資、という流れで進みます。 

- テレビ東京コミュニケーションズでは、スタートアップ企業に向けてどういった支援をされてらっしゃいますか  

スタートアップからは、メディア露出やメディアプランニングなどで当社への期待いただくことが多いです。我々の本業領域でもありますので、出資先という理由だけで優遇することはできませんが、近しい関係のパートナーとして、コミュニケーションコストを抑えながら前向きな会話をさせていただきます。

例えば出資先のZeppyは国内最大級の株式投資専門のYoutubeチャンネルを持ち、コンテンツ制作も手がけている企業ですが、同社とはデジタル経済番組の共同制作を実施しています。同様に出資先のSEPALとの取り組みでは、当社保有IPを活用したグッズ販売をLINEと連動したECシステム上で行っています。その他、イベントの共同開催など現場での協力も行います。 

- ベンチャー企業の株主の役割、協同出資などの協力関係の可能性などについて、遠藤さんのお考えを教えてください

GAFAMやテスラに代表されるようなメガベンチャーがアメリカの経済を牽引していますが、そういった存在の企業が日本にも出てきてほしいと思っています。コロナ禍による経済停滞の影響を受けてもなお日本企業の内部留保は、ものすごい金額が積みあがっています。足元の経済成長は鈍化したままですが、これらのキャッシュを日本の未来をつくる原資として、スタートアップ企業や起業家に投資していく意義は大きいと考えています。

ただ、そんな大それたことを言っても、当社1社で実現できることは限られていますので、考えを共有できるCVCさんやVCさんとの共同出資などは積極的に検討していきたいです。メディアアセットの活用が価値向上につながるようなスタートアップとは相性が良いと思いますので、そういった役割がはまる先があれば、ぜひ当社にお声がけいただきたいです!

- 事業会社の中での投資活動の醍醐味や課題について教えてください

スタートアップへの投資業務することの醍醐味は、起業家チームとのダイレクトなコミュニケーションであり、リレーションですよね。スタートアップがどれだけ身も心も削りプロダクトや事業プランにかけているか、資金調達に向けた投資家対応がいかに大変か、といったことは大企業で働いていると接することはほぼありません。また、投資判断のために、事業収益、キャッシュフローなどを駆使できるファイナンススキルも身に着けなくてはいけない。事業会社の一業務であるため、投資業務のみに集中できない、いつまで携われるかわからない、VCと比べたインセンティブ設計など、制約や課題はありますが、事業会社に所属しながら、スタートアップの成長と向き合いながら、自分の経験値も上げていける仕事は、大きなやりがいがあると思います。日本において事業会社によるスタートアップ投資はまだこれから大きくなると思いますし、今から携われていることは有難いですね。

投資活動に関わる課題ではないですが、新しい事業を創造するという場面での、動き方として、メガベンチャーといわゆる大企業との差は感じます。歴史の長い大企業的な発想だと、社内でピッチや、新規事業のアイデア募集をやる傾向がありますよね。「こんなことがしたい」「こういうのがあればよい」という意見を広く募るというか。ブレストという意味で意見を集めるのは悪くはないですが、アイデアの募集と、シビアに市場とリソースを分析し、ビジネスモデルの構築を行っていくまでには、大きな隔たりがあります。

このギャップを埋められるのは、実際に起業や事業立ち上げを経験した人材になるのですが、そういった人材が内部になかなかいないのが実情。じゃあ外部から採用しようとしても、そういった歴史ある企業が、事業開発の経験豊富な人にとって魅力的な環境を用意できるのか?といったマッチング面でもハードルがあります。

私はたまたまデジタル領域での起業経験や事業立ち上げをしてきた中での出会いで、今の業務に携われていますが、経験値(知)の活用なしに、新規事業の立ち上げができると考えるのは楽観的すぎると思いますし、じゃあ、スタートアップへの「投資」を通じれば、もっと簡単に事業開発ができるか、というとそうじゃないのではと思います。スタートアップは自身の会社や事業を立ち上げるのが最優先事項ですから。ここを理解していない企業は多すぎると思います。 

- 今後、出会って出資していきたい、スタートアップや起業家のイメージはありますか?

偉そうに聞こえちゃうかもしれませが、新たな産業を生む気概やパッションのあるスタートアップ、経営者と出会いたいです。インターネットの普及で、楽天、サイバーエージェント、メルカリなど、日本にもメガベンチャー生まれ。それと同時に起業も一般的なものになってきました。トップコンサルの出身者や、MBAホルダーがベンチャービジネスへ挑戦することも当たり前のようになり、未来を託せると思えるスタートアップ、経営者が確実に増えていると思います。そういった優秀さに加えて「強い思い込み」、「念」を併せ持つ起業家にコミットしたいですね。新しい産業で世の中を変えるために「経済合理性」では捉えきれない世界を描き、信じる力を持っている人。「大言壮語が良い」のとは全く違うのですが、エゴイスティックな思いであっても、そういった信念を持った起業家と出会い、その実現を支援する局面で、燃えたいですね(笑)

 

- 投資先の保有方針、Exitの考え方など今後のビジョンについて教えてください

投資リターンの指標としてIRRの基準は持ってはいますが、保有期間というものは定めていません。新たな事業が立ち上がり、羽ばたいてほしいので、ExitはIPOを目指していくというのがベストシナリオだと思います。それ以外のケースは、個別対応になると思います。明確な期限があるCVCさんだと違ってくるのでしょうが。

当社のミッションである「メディア領域のアップデート」は、投資だけで実現できるとは思っていません。ただ、メディア領域に関わる新たな技術、取り組みが社外でどん生まれていますし、資本提携・業務提携もそうですが、あまり形にとらわれず、志の高いスタートアップ企業、経営陣、それを支える株主とは今後も広く連携を模索していきたいです。

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