世界シェアNo.1 × 成長できる環境が、強いCVCを作る。

.
.
インタビュー
鳥井 敦
東芝テック株式会社
新規事業戦略部 CVC推進室 室長

楽天で約10年間勤務。オークションサービスや動画配信サービス、電子書籍サービスなど数多くの新規事業立ち上げに携わる。2013年に東芝入社。教育分野向けの新規事業PJに従事。東芝テック転籍後、オープンイノベーションを活用した新規事業創出活動を推進し、2019年に東芝テックCVCを新設。2021年より現職としてCVC活動を率いる。
石井 達也

東芝テック株式会社
新規事業戦略部 CVC推進室 エキスパート

2010年関西大学卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社(2015年グループ会社のCCCマーケティングホールディングス転籍)。社長室、経営企画室にて中期計画策定やデータビジネス領域の新規協業案件を推進。その後、M&A、スタートアップ出資をプロジェクトマネージャーとして従事。2022年10月より東芝テック入社後、新規事業創出における中期計画策定、ストラテジー立案策定しつつ、CVC推進室にて投資案件の実行責任者に従事。

世界シェアNo.1の東芝テックが全社を挙げて後押しする本気のCVC

 

- 東芝テックCVCはどのような投資活動を行っているのでしょうか?

(石井)東芝テックが手掛ける商品販売の情報管理システム=POS事業は、日本だけでなく世界でもシェア1位を誇ります。他にも業務用プリンターのリース事業は、日本では他社さんのイメージが強いですが、実は中国で強みを持っているんです。

とはいえ、社会の人口動態が変わっていきますし、マクロ的な経済変化、直近ではコロナ禍にあって、生活者の消費行動は変化していきます。盤石な強みを持ったグローバルな事業構造ではあるものの、経営層としては変わりゆく環境に危機感を持っています。リテーラー様に変化に対応した新しい価値を提供し続けるため、東芝テックのCVCは経営層含めた全社的なコミットメントを受けて活動しています。

そのため、投資活動を開始してまだ長くはない現時点でも、親和性のあるテーマを中心にすでに13社、28億円を投資しています。例えばコロナ禍による影響で飲食店の経営は大きな影響を受け、労働力の構成自体が変わるような事態にもなりましたが、現場で多くの人が動く店舗ビジネスにとって、HRは重大な共通課題です。こうした領域は、東芝テックが今まで手掛けていない一方で、事業相性が良いため、積極的に投資しています。

当社のCVC機能は本体内にあり、新規事業戦略部に紐付いたCVC推進室という位置にあります。CVC推進室は中長期的な目線で、将来の広い可能性を検討して投資をする役割を担っていますが、同じ部署の中には、東芝テックの主力であるPOS事業のデータを活用した新規事業を推進する部署もあり、両面を検討していけるようになっています。

東芝テックの事業モデルを紐解いていくと、POSもプリンター事業もプラットフォーマーだと言えます。顧客情報が統一して集約されたデータベースとネットワークの上に、幅広いリテーラー様の事業活動と顧客接点が載っているという形です。そう考えると当然、POSを必要とするお客様のビジネス活動の変化に合わせてプラットフォームの提供する基盤、機能を変えていく必要があります。

CVCの投資コンセプトとして、そうした店舗の形態やあり方が変わるリテールの未来を予想し、新たな変化に対してアンテナを張ってアプローチしていく事や、プラットフォームとして有するPOSのデータを軸に、データ取得のプロセスやデータの変換といった領域へ投資を広げていきたいと考えています。

- 東芝テックはどんな経緯でCVCを始めたのでしょうか?

(鳥井)私が発端となる活動を始めたのは4~5年前です。元々、楽天と東芝本体で新規事業をやっていた事もあり、東芝テックに来てからまずオープンイノベーション推進部隊を作り、スタートアップとの協業を推進する空気を作りました。その中で社内にスタートアップというものを啓蒙し、協業すると面白いものが生まれるかもしれない、という発想を知っていただいて、さらにこれを加速するにはCVCが必要ですよ、と段階的にCVCの形に育てていきました。

特に時間をかけたのは、キーパーソンとの対話です。活動初期は、役員それぞれののCVC事業に対する理解度も視点も異なっていたので、会議の場で話しても中々理解していただけないこともありました。ですから、それぞれの役員の方の立場を踏まえた十分な説明時間を作り、その後やっと経営会議にもっていったという流れ、しっかり丁寧にステップを踏んでいったんです。

立ち上がりが遅いという見方もあるかもしれませんが、実際CVCというアイデアの浸透に時間をかけた事はむしろよかったと思っています。今では皆が納得した活動だからこそ、相談の時に意外な方がフォローに回ってくださったり、人をご紹介いただいたりと、かなりうまく回ってきている印象があります。

(石井)私は2022年10月入社なので、設立の経緯は直接知らないのですが、他社でCVCをやっていた経験と比較しても、鳥井のおかげでCVCが社内で非常に認められている活動だと実感しています。具体的には、予算の面からもその結果が見て取れますし、社員と話をしていても、CVC活動がしっかり受け入れられているように思いますね。

- 社内のCVC活動への理解度が高いということですが、日々の活動ではどれくらいの自由度があるのでしょうか?

(鳥井)正直、CVCは本体に比べても、かなり自由にやらせてもらっています。CVC内部メンバーでCVCの全体戦略や追いかける投資テーマの検討から、ソーシングして投資し、その後のモニタリング、成長支援、協業連携のところまで、一気通貫して自主的に担当していけるのが、東芝テックのCVCの特徴かと思います。

(石井)そこは私が入社して結構びっくりしたポイントです。以前の会社では、基本的にテーマは経営から下りてくることがほとんどだったんです。CVC推進室では、鳥井さん含め、自分たちでテーマをしっかり考えて取り組んでいます。トレンドなどいろんなものをキャッチアップして自分たちでテーマを探しに行けるのは、難易度は高いですが、自由性が高く、面白いと考えています。

(鳥井)このやり方は、WILLが強い人にはすごく合うと思います。自分のやりたいことを経営目標とすり合わせて、それが投資テーマになっていくというプロセスが面白いです。逆に言えば、受け身の人はちょっとぽかんとする可能性があるかもしれませんね(笑)。

また取り組み方の自由度という意味では、現在はマイノリティ出資を中心に実施していますが、今後はM&Aも視野に入れています。大企業におけるイノベーションの一つの選択肢として、スタートアップをまるごと取り込んで新規事業を作るような手法も必要になってくると思うからです。そこまでの機能を担うのがCVCだと思っています。

転職・プロパーMIXのチームで、事業部連携と自主性を両立

- CVCはどのような体制で活動していますか?

(石井)投資担当3名と、社内の事業部と連携を進める協業推進の担当者が3名、そしてPR担当が1名います。投資担当の3名は全員転職組が活躍していて、鳥井は楽天グループから、吉村と私はCCCグループからでした。吉村と私がおなじ企業出身なのは全くの偶然で、入社してから知ったんですが(笑)。

(鳥井)投資担当であるキャピタリストは、意識して中途で採用しています。石井、吉村、私です。加えて上野というCVCのブランディングや外部への情報発信を担当する担当者もいますが、彼女も中途です。

一方、協業推進を担当する3名は東芝テック内の異動メンバーです。やはり社内を詳しく知っておかないとできない業務がCVCにはあると思っているので、社内からCVC専任として移動してもらっています。協業推進は事業部との協力が不可欠なので、意図的に営業からも研究開発からもメンバーが集まっています。POSデータの営業的な活用を目的とする協業もあれば、研究開発的な活用を目的とする協業もありえるので、どちらにも対応できるような体制です。

今後もコアメンバーをもう少し採用してCVCとしてのカルチャーを醸成したいと思っています。かなり本体事業に近いテーマを追う時もあるので、事業部からのメンバーが兼務でキャピタリストのサポートに入ってもらうなども検討中です。

同じような人間だけ集めると、同じテーマばかり追うチームになってしまいます。投資という観点で多様なポートフォリオを組むためには、やはりチームのメンバーに多様性を持たせないといけない。更にバックグラウンドが多様なチームにしていきたいと考えています。

次のキャリアは、CVCしかないと思った

- 中途で入社された石井さんはどのようなキャリアをお持ちですか?

(石井)私は香川県出身で、高校まで香川で過ごしました。高校卒業後は、やりたいことがなかったのと、広い世界を見たいと思い、すぐに大学進学はせず、インドネシアに放浪の旅に出ました。
インドネシアの中でもローカルなエリアに住んだのですが、そこで日本とは全く異なる文化を体験し、エンターテイメントが人に力を与えて、楽しく生きている様子を目の当たりにしました。治安もあまり良くない環境で、(もちろん良いことではないのですが)村中50人くらいが集まって小さな画面で海賊版の映画を囲んで皆で観て感動を共有していたり、マンホールを楽器にして踊って大騒ぎしていたり・・・そんな生活を目撃しました(笑)。

その後帰国してすぐに、エンターテインメントといえば東宝と思いたって、入社したいと連絡しました。しかし、採用は大卒のみということだったので、そこから大学に進学することにしました。大学の間はずっと東宝に入社するぞ!と目指していたんですが、結局、最終面接で落ちました(笑)。それでもやはりエンタメへの熱は冷めず、エンターテインメントに関われる仕事を探した結果、新卒でTSUTAYAなどを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に入社しました。

- CCCに入社してどのような経験を経て今に至るのでしょうか?

(石井)CCCの仕事は向いていたようで、入社3年目で歴代最年少の店長を任されました。TSUTAYAの店長はすごく楽しかったです。ただ評価されたためか、突然社長室に配属になって、経営戦略や事業の予算管理の仕事をやることになりました。ただ、管理的な仕事はあまり面白くないと感じていたのと、自分自身のエンタメ熱も高かったので、CCCマーケティングという子会社が分社化で設立された2015年に、CCCマーケティングへ転籍しました。

CCCマーケティングは、Tポイントのデータを活用する子会社で、そこで初めてデータによるOne to Oneのコミュニケーション、パーソナライゼーションの世界を知り、とてもワクワクしました。2年間ぐらいは業務提携を推進するような組織にいて、Tポイントカードが持っている会員データと、外部メディアを組み合わせて新しいプロダクトを作り、今までなかった商流を組み立てる、という仕事をずっとやっていたんです。

今思えば、パーソナル広告の走りみたいなサービスでした。例えばFacebookのようなSNSはデジタルのIDデータを持っています。一方でTポイントカードのデータはリアルでのデータも保有しています。それが組み合わされると、例えばリアル店舗でAというブランドのビールを買った人に、オンラインでブランドBのビール広告を出すことができるという世界ができます。個人情報保護法が変わったり、SNSの会員規約が変わったりして、最終的にはそのプロダクトはなくなってしまったんですけれども、そういった新規性の高い分野に携わらせていただきました。IDと横断的な購買データを持っている会社は他になかったので、CCCでないとできない経験でした。

サービスクローズ後は、以前所属した社長室に戻って再び経営企画や経営戦略をやっていたのですが、そこで「オープンイノベーション」という言葉に出会いました。
当時Tポイントカード会員は6,000万人を突破、順調に成長していて社内としては安泰だという意識があったのですが、そんな時にPokemon Goが出てきたんです。わずか13日間で会員5,000万人を突破したというニュースを見ました。衝撃でした。我々が十数年間かけて作った顧客基盤を、たった2週間で作ってしまったんです。そこからCCCは会社を挙げてスタートアップ投資や資本業務提携、スタートアップのM&Aを含め、すごく積極的にやりだしました。

経営企画としてイノベーションに取り組んでみると、新規事業開発やVCやM&Aなど色々なキャリアがある中で、CVCが一番総合力が高い仕事だと思うようになりました。事業会社として、現在の既存事業の中身と、中長期的な未来の戦略を把握しつつ、外部環境として世界がどう変わっていくのかマクロ視点を持ち、かつ出資のためには個別のスタートアップで起きていることも勉強もしておかないといけません。次に私がキャリアチェンジをするとしたら、CVCにいくべきだと思った。そんな時に以前から以前から知り合いだった鳥井さんにうちのCVCはどうかと声をかけてもらったんです。それが東芝テックに来たきっかけでした。

VCへの出資が、キャピタリストの成長機会に

- CVCメンバーが増える中で、入社後の育成や支援についての取り組みはありますか?

(鳥井)キャピタリストの仕事は分厚い教科書がある仕事ではないので、正直に言うと、入社された方の特性や状況を見つつ、OJTベースで必要なサポートを提供しています。例えば投資系が弱ければ、投資メンバーにしばらくついてもらい、メンタリングを提供したり、事業部内との連携経験が弱ければ、その部分を事業部出身者がサポートします。CVCとして会社全体の理解は一定必要になりますので、極力社内の様々な情報をオープンにしています。

また、少し個性的な取り組みで言えば、投資先のモニタリングという業務は、CVCに近い部署の経験がある方でも知っている方は少ないでしょう。私達は専業ベンチャーキャピタル(VC)への出資もしているので、「教えてキャピタリストさん」というような企画をやって、責任者クラスのキャピタリストの方にお越しいただいて、東芝テックCVCのキャピタリストがこうした普段困っていることをフリーに相談する会をやっていたりします。キャリアアップにつなげてもらうこうした機会提供は積極的に行っています。

VCさんには、投資検討時にVC視点でのスタートアップの評判を聞いたり、逆にオススメのスタートアップの情報を共有してもらったりといった連携もよく行います。他にも出資企業に対してVC投資家目線のマクロトレンドを解説してくれる機会もあり、業界の濃い最新情報をキャッチすることができます。このようなVCとの交流機会は少なくとも月に1〜2回程設けていますので、CVCキャピタリストとしての成長機会になるでしょう。

(石井)東芝テックCVCでは、有料のセミナーも積極的に参加できます。例えば、私は今海外のデータマネジメントの資格の取得中なんですが、参考書がものすごく高いんです。それも買ってもらえました(笑)。もちろん自分の成長に加えて、CVC全体の底上げに繋がるからですが、自己成長の機会にコストをこれだけかけてくれる会社はなかなか少ないと思いますね。

- 今後、どのような方に東芝テックCVCの仲間になってほしいですか?

(鳥井)投資先にはテック系が多いので、ソフトウェア関連の知識が一定ある方が望ましいです。また、事業開発や新規事業立ち上げのプロセスは理解しておいていただきたいですね。一方で、投資に関する知識は正直後からでも勉強できると思っているので、優先はしていません。

入社後については、環境をを生かすのはその人次第だと思います。これまでお伝えしたように、自由度についてはかなり広いと自負していますので、やはり自分で成長する、新しいことにチャレンジする意欲や姿勢がある方が向いていると強く思います。

東芝テックで、リテールの未来を創造する

- 東芝テックはスタートアップにどのような価値を提供できるのでしょうか

(石井)スタートアップだと全国へ拠点展開、人を配置するのは難しいものですが、東芝テックは営業時間内には絶対に止まってはいけないPOSというビジネスライフラインを扱っているので、全国に拠点があり、手厚いカスタマーサポート部隊がいます。このカバレッジは一つの強みです。

もう一つは、膨大に蓄積されたPOSデータです。小売と顧客をつなぐ接点としてのPOSというプラットフォームに対して、様々な別のデータやサービスを接続する、機能をつけるという研究開発は、やはりPOS屋では一番強いと自負しています。

例えば、POSの登録をアプリ上と連携することによって、商品をピックしたらもうお会計が終わっていて、POSを通ったことになっているみたいなサービスはすでに連携で実現しています。Eコマースでオーダーをして、会計は終わっていて、店舗には商品をピックアップだけしにくる、というのもありますね。商品購入のラストワンマイルは時間が勝負なので、効率化によってサービスの質が高まり、エンドユーザーも喜ぶ、という良い連携ができています。

- 東芝テックはリテールの未来に向けて何を目指していくのでしょうか

(石井)これからの展望として、小売店舗でのDX、リテールの体験の改革が必要だという危機感を持っています。店舗でのDXはリテールの設備投資が一定必要になりますが、その投資負担をリテール側に負担いただくのが一般的で、それがボトルネックでDXが進んでいない部分がありました。今後、この点を打破できないかと考えています。

業界に広く普及しているPOSを有し、マネタイズポイントの工夫がしやすいポジションに居る東芝テックと、スタートアップが組むことで、新しい体験の創造と新しいビジネスモデルの創造が両立でき、リテールの次の形を作れるのではないかと思うのです。横断的にリテールさんとお付き合いがある東芝テックだからこそ、チャレンジできることだと思います。

また、消費者側への働きかけも狙っていきたいと思っています。例えば現在サステナビリティに関する企業活動が盛んになっており、二酸化炭素排出量削減や地球に優しい素材を活用した商品、プロダクトを作っていきましょうという動きが増えています。ですが、私見ではありますが若干政府や社会からの強制力みたいなところも働いていることもあり、企業側の意識頼みという部分があるように思います。

こうした中で私としては、POSインフラを絡めて消費者側の意識変容を変えていくこともできないかと思っています。例えば今だとフードロスの対策の中で、賞味期限ギリギリの商品を安く売るようなサービスが入口かもしれません。企業側だけでなく消費者も意識したサステナビリティの向上は、CVCの一つの主軸としてやっていきたいと思っています。

CONTACT

弊社の事業・サービスに関するお問い合わせや資料請求、
支援のご依頼、コミュニティ入会やイベント参加のお申し込みなど、お問い合わせ・資料請求・お申し込みはこちらからお気軽にご連絡ください。

CONTACT