事業提携前提のスタートアップ投資。協業による新事業創出に感じる挑戦の価値

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インタビュー
内田 多

凸版印刷株式会社 事業開発本部 戦略投資センター部 主任


2010年 凸版印刷入社。法務本部にて、BookLiveやマピオン等のデジタルコンテンツ領域を中心に法務業務に従事。広告企画・開発部門を経て、2016年より、経営企画本部 にて、ベンチャー投資およびM&Aを通じた事業開発を担当。サウンドファン、キメラ、combo
(事業推進担当を出向兼務)、ナッジ、Liberawareなどを担当。
早稲田大学大学院 経営管理研究科修了。早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所招聘研究員。

出資と業務提携は必ずセット

- 内田さんは、凸版印刷がCVC活動を始めた2016年当初から参画され、キャピタリストとして活動なさっています。凸版は、どのようにスタートアップ投資に向き合っているのでしょうか?

2016年のCVCチーム発足以来、年間約10社のペースで投資し、6年間で60件社ほどのスタートアップ投資を実行してきました。

スタートアップ投資を行う際は、凸版とスタートアップとの間で、投資後に共創していく事業構想や協業案をまとめる”業務提携契約”を必ず締結しています。

言い換えれば、具体的な協業の方向性が定まらない投資はしない、ということです。出資は、「凸版とスタートアップにとっての新事業創出のためのもの」という考え方です。

もちろん投資部門ですので、内々では投資リターンも見ています。ですが、凸版という伝統企業が新たな事業を生み出していく手段としてのCVC、という位置づけは明確になっています。

ですからEXITにおいては、IPOも3件ありますが、それに加え、M&Aによってトッパングループへの参画に至ったケースが2件あります。

- CVCチームの体制について教えてください

現在、CVCチームは海外も含め15人程の態勢です。その内3-4割が中途採用メンバーです。

投資主体としては、国内は、LPS(投資事業有限責任組合)やCVC子会社を設立せずに、凸版のバランスシートから直接投資を行っています。この座組みについては、外部環境の変化に応じて柔軟に考えていますが、現状では、事業部門とスタートアップが近い距離感で協業できるという面で、プラスに働いている部分が大きいと思います。

 

- 検討対象となる調達ステージについてお聞かせください

協業にこだわっていることもあり、ボリュームゾーンは、シリーズA、Bです。ただ、シードやレイターでも投資はしています。例えば、昨年で言えば、シリアルアントレプレナーの方が創業したFintech系のスタートアップに、シードラウンドで投資させていただきました。

具体的な協業可能性を構想するのが私達の特徴なので、すでにある程度プロダクトが立ち上がっていて、事業方針があり、成長加速のために当社のリソースを活用したい・当社として支援できるというスタートアップが中心となります。

- 事業提携を視野にいれながらどのように投資検討を進められるのでしょうか?

ソーシングの主なルートは紹介です。VCや、CVC、投資先の方々からの紹介が最も多いです。そのほか、ピッチイベントでの出会いや、スタートアップへのDMから縁が始まるケースや、スタートアップから当社に問い合わせをいただくケースもあります。また、事業部門から事業シナジーがありそうなスタートアップということで、相談を受けるケースもあります。

その後の協業構想やDDフェーズを経て、投資実行にいたるという流れです 。双方納得する業務提携契約に落とし込めるまで、スタートアップの経営陣はもちろん、既存投資家との意見調整や、事業部門と共に協業シナリオについての議論も行います。

その過程で、スタートアップとして、凸版との協業推進は時間軸的にまだ早いとなるケースもあれば、CVCチームが主体となって事業開発を行う前提で検討が進むケースなど、投資に至るまでのプロセスは一様ではありませんが、この間に、協業への熱量が高まるかどうかが重要だと思います。

スタートアップの成長のために、経営陣は事業方針の変更や、プロダクトの見直しなど柔軟な意思決定が求められる局面は多いと思いますし、投資実行後、当初との協業シナリオを見直すことや、協業推進の優先順位を変更するケースもあります。 だからこそDDフェーズで、実務的、事業的な側面と共に、協業を通じた新事業創出の意欲をお互い確認しあうことを重視しています。

熱を生み出したり、それを伝えるものに携わるような仕事がしたい

- 学生時代、内田さんが好きだったこと、打ち込んでいたことなどについて教えていただけますか?

小さいころからとにかくスポーツが大好きでした。

私自身はテニスをやってきましたが、種目を問わず、アスリートが好きなんですよね。食欲などの欲求を抑えて、自分自身を律しながら厳しい競争に打ち勝ち結果を出していく、という部分など、憧れますし尊敬します。

そのうえで、サッカーでいうとロナウジーニョ選手や小野伸二選手など、「誰よりも楽しそうにサッカーしながら、ダントツに上手い」選手が好きでした。あとは、単純に好きなチームのアイコンだったアイマール選手です(笑)。 

コロナ禍で最近は行けていないですが、Jリーグの試合を観に行くのがとにかく好きです。サポーターとクラブの関係、試合展開と応援の一体感など、熱狂を感じられる空間に身を置くことが好きなんだと思います。

- 凸版印刷に就職を決めるきっかけはどういうものだったのでしょうか?

就職を考えたときにまず思ったのは、文藝春秋さんが発刊している「Sports Graphic Number」のようなスポーツ雑誌に関われるような仕事がいいなぁということでした(笑)。出版物やメディアに関わる領域というのは、最初から頭にあったとは思います。そこから考えを掘り下げていく中で、具体的な雑誌や出版物へのこだわりというより、熱を生み出したり、それを伝えるものに携わるような仕事がしたい、という方向に気持ちが向いていきました。出版を支えるインフラを持ち、磨き上げていくという凸版印刷の仕事は魅力的でした。

あとは、職種というよりもチームで動く仕事がしたいなと思っていました。テニスをやっていた時も、シングルスよりダブルス、ダブルスよりも団体戦が楽しくて力も発揮できるタイプでした。文系だと営業系の仕事に就く可能性はそれなりに高いと思うのですが、その場合、個人営業よりもチームでクライアントを担当するほうが自分には向いているなとも思っていました。凸版印刷の営業スタイルがそういうものだったのも、選んだ理由の一つです。

- 新卒当時はどんなお仕事をされたのですか?

2010年に新卒で入社した後は法務部に配属されました。希望していた部署かというと記憶は定かではないです(笑)。当時、AmazonのKindleが一般的に普及し始めた時期で、電子書籍などのデジタルコンテンツに関わる仕事は新鮮で面白かったです。電子書籍の子会社の法務業務を担当したり、M&Aや資金調達案件などの法務面を担当しました。

紙媒体がいよいよ減っていくという危機感が社内にも醸成されていた時期だったのだと思います。一方で、カラーマネジメントや版に起こすといった凸版が担っているプロセスは、デジタルにおいても強みとして活用できるというのも見えていました。

紙媒体の電子化が進むというディスラプションに対して、会社としてデジタル分野で試行錯誤している変革期でした。電子書籍を中心に、新事業の開発から、その後の事業売却などの選択フェーズまで、法務という立場で関わらせてもらえた貴重な経験でした。

- 2016年から、経営企画部門に異動された経緯はどのようなものだったのでしょうか?

法務部にいた頃から、経営企画本部の事業投資部門に異動したいという声は、折を見て上げてました。

電子書籍関連 のM&A案件に携わったのがきっかけです。手続きを含めた論点出しとヘッジ策の検討、契約交渉など、深夜までかかって仕事をするということもあったのですが、全く苦にならず、むしろ楽しかったんですよね。

ただ、法的な障壁がないかの確認や、契約における論点を詰めていくのは、どうしても仕上げに近いフェーズです。形が定まる前の構想段階から形を作っていくところに関われたらもっと面白いだろうなと感じていました。

このM&Aの時、一緒に仕事をしていた経営企画チームの担当が今の上司なのですが、法務チームとして関わりながら、近い将来、経営企画サイドの仕事をやってみたい、と考えるようになりました。

そういう意思を含めて、当時の上司とコミュニケーションをとりながら、法務部門での経験を経て、事業部門も経験させてもらった後に、今の部署に異動してきました。

- 配属後に担当する仕事がCVC投資だと聞かされた時はどのように思いましたか?

ワクワクしかありませんでした。一緒に仕事をしたいと思っていた人たちと仕事ができることの期待感が大きかったです。

配属前、ベンチャー投資を担当するということは頭になかったですが、M&Aや、事業再編が年間何度も起こるようなものでもないことに対して、ベンチャーへのマイノリティ投資であれば、発生頻度という意味ではより多いだろうと思いましたし、積極的に関与し、貢献する機会も多いのでは、という期待感もありましたね。

- 立上げ当初はどういうメンバー体制でやられていたのでしょうか

2015年度までにスタートアップとの共創型事業開発の可能性の探索・研究・議論を進め、会社としてCVCの取組みを始める決定を主導したコアメンバーが3人いるのですが、2016年4月に私を含めて数名が加わり、2016年8月に計5~6人でスタートしました。

最初は、投資委員会の事務局運営などをしながら、少しずつ業務の流れ・内容を理解していきました。

- それほどCVCが一般的でなかった2016年から始められて、投資実績を積み上げることができた要因はどこにあったと思いますか?

立上げた3人の行動が非常に大きいと思います。2015年頃から、VCやスタートアップ、起業家にアプローチして、接点から関係性をつくっていました。

単に接点をつくるだけでなく、凸版の経営層も巻き込んだミーティングをどんどんアレンジしていく。そういうアクションを続ける中で、スタートアップとの協業がこれからの凸版にとっていかに重要か、というコンセンサスが醸成されていったと感じています。そういった、地道だが戦略的な積み重ねが、社内外において、大きな役割を果たしたと思います。

また、社内カルチャーの面では、「失敗を恐れる」「失敗を追及する」というカルチャーがほとんどない、というのもプラスに働いていると思います。

キャピタリストに求められる「マインド・知識・スキル」

- キャピタリストの仕事をやっていく上で、内田さん個人が直面した壁や気づきなどについて教えてもらえますか?

一番は営業マインドです。それまで法務部や事業部のメンバーとして、凸版の看板で動くことが多かったこともあり、スタートアップへの営業や人脈作りにおいて、「自分自身を売り込む」という意識が足りていませんでしたね。最初は立上げメンバーの誰かについていくことが多かったですが、借りてきた猫のように座っていることもありました。

でも、やっていくうちに「これじゃダメだ」と気づいて、先輩たちのサポートや、前職がVCのメンバーの動き方などを見て学びながら、自分の心地よさ、というのとは別に、意識と行動を変えていこうと。

その他、知識やスキルの面では、事業構造や内容はもちろん、会計、ファイナンスから人事やテクノロジーのことまで、幅広い領域に関わり、自分なりに理解していく必要がある仕事なのですが、当初わからないことが多く、そこからくる途惑いもありました。

- そういった苦手な部分の補強や、新しい意識づけのための努力を続けることは大変ではなかったですか?

悩みながらも、「出来るようになりたい」という気持ちで動き続けました

そんな中で、知識やスキルの面は自分の努力で補えるし、自信にもなるだろうと、ビジネススクールに通うこともしました。

- そういう壁やチャレンジに現在進行形で向き合いながら、携わられているキャピタリストという仕事にはどんな醍醐味がありますか?

たとえば、事業構想や投資仮説など、半年前に「こうなったら良いな」と思っていたことがあるとします。そこで、実際に現実になるところまでモノゴトが進んでいる、ということに何度も出会えるのは醍醐味だと思います。

スタートアップのスピード感はやはりとても速く、PDCAやフィードバックのサイクルがどんどん回っていく中で、自分のアクションに対しても、クイックにフィードバックを得られることも刺激的ですね。

それと、個人的な好みからくるものですが、起業家はアスリートに近い部分も感じています。人生を懸けて自分のプロダクトやアイデアに向き合い、熱狂している姿勢や、周囲を惹きつけていく姿に触れながら、それをサポートするのが自分の仕事だ、と自覚できるときは、大きなやりがいを感じられます。

- キャピタリストという仕事の難しさや課題感を感じられる部分などはありますか?

起業家と一緒に、新しい事業を共創・協業を現実化していく過程は、熱い日々ですが、簡単ではないです。

資本業務提携を通じて新しい事業を創出できた、と胸を張って言えるような事例を生み出すべく、協業構想の具体化や進捗に向かう行動・コミュニケーションをとることには高いモチベーションで取り組めています。

その中で、「状況の変化にどう対処していくか」という面には、難しさを感じています。スタートアップは朝令暮改がある意味当たり前だったりしますし、事業部門を含めて凸版の状況も、様々な要因に応じて変化していきます。協業の前提条件が成立しなくなるような変化も起きうる、ということは当初から想定してるとは言え、座組みや内容の見直しなどをどうすり合わせれば良いのか、そもそもすり合わせをすることが必要なのか、といった問いに自分なりにこたえていかなければいけない。

当初思い描いていたプランが実行されなくなることもありますし、そういうときはつらい気持ちにもなります。そういう意味で、ある程度割り切ることも必要なんだろうと思いますが、想い入れ無しでもやってはいけないと思いますし。このあたりは難しいですね。

- 今後、どんなスタートアップに出会っていきたいですか?

チームを大切にするスタートアップですね。事業を作っていく、それを継続して育てていくということにおいては、組織・人の問題に行きつくと考えています。そこを抑えているか、大事にできるかというのは欠かせないのではと思います。

そのうえで、社会課題の解決に貢献しようという考えをもったスタートアップとともに、新しい価値を生み出していきたいです。

- 他企業のCVCとの連携や協力についてどのように考えていますか?

CVC同士を含め、投資家間の横のつながりはすごく大切だと思います。

経験上、「案件の時だけ繋がる」という関係性より、日ごろから企業としての方針や、キャピタリスト個人としての考えなどについて、カジュアルにコミュニケーションを取れる関係性がベースにあるほうが、いろんな意味で発展性がある気はします。

私は日本中の事業会社・CVCが集まるコミュニティ『FIRST CVC』に参加していますが、こうした活動を通じて新たな機会が広がっていくことを大きく期待しています。

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