「海運×CVC」ニッチだからこそ価値がある。スタートアップと共に次世代の海運業を拓くMOL PLUS

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インタビュー
阪本 拓也 / Takuya Sakamoto

MOL PLUS 代表

2012年京都大学農学部卒。海外ビジネスに携わるため、2012年株式会社商船三井に入社。鉄鋼原料船部にて海外顧客を担当。その後、同社現地シンガポール法人 MOL Cape社へ出向し、2017年自動車船部統括チームにて自動車船100隻の配船計画/船腹手当するチャータリング業務を担当。
2020年、海運業とスタートアップの掛け算を実現させるため、社内起業制度で「海運版CVCの設立」を自ら提案し採用される。2021年4月、CVC子会社として「MOL PLUS」が設立され、代表に就任。

スタートアップに“海運”というビジネスチャンスを提供する

まずは、商船三井のCVCである「MOL PLUS」社の投資領域やストラクチャ、組織などについて教えていただけますか?

当社は「海運業と社会に新しい価値をプラスする」をミッションに、2021年4月に設立された商船三井のCVC子会社です。

2021〜2024年度の4年間で40億円の投資枠を設けた上で、国内のみならず海外企業も投資対象とし、東京(5名)、ロンドン(2名)、シンガポール(2名)の3拠点で活動しています。

投資対象となるスタートアップはシリーズA以降のアーリ〜ミドルステージがメインで、WOTA(水循環)、リージョナルフィッシュ(高速魚養殖)、メトロウェザー(風計測)、京都フュージョニアリング(核融合)、AMOGY(米国、アンモニア発電)、Atomis(多孔性配位高分子)など、設立から2023年8月までに11社への投資を実行してきました。

当社が取り組んでいる投資領域/テーマとしては

  1. 海運/物流のアップグレード領域(デジタル化、自動化、環境負荷低減)
  2. 新事業分野(再生可能エネルギー、脱炭素、海洋事業、不動産領域、etc.,)

の大きく二つです。

MOL PLUSとスタートアップの接点、提供価値はどのような点にありますか?

当社の最大の特徴は「海運業として新たな事業を創出するためのCVC」であるということです。

海運という自分たちの領域を起点に、隣接領域や、中間領域、さらにその先の新領域を眺めながら、新たな価値を生み出すためにどんなアイデアや技術、世界観をもつスタートアップと連携し、支援していくことが有効なのかを考えて、投資を行っています。

ですから、当社ができる最大の価値提供は、スタートアップに商船三井グループの持つユニークなリソースを使い倒してもらえるようにすること。具体的には以下のようなものです。

  • グローバルな海運拠点
  • 約800隻の大型船
  • 世界40か国に亘る海運ネットワーク
  • 物流/貿易に対するノウハウ
  • 港湾や陸運業におけるアセット

加えて、そもそもスタートアップに対して「海運市場という知られざる巨大な市場にアクセスできる機会を提供できる」という価値も大きいのではと考えています

あまり知られていないかもしれませんが、世界の海運業の市場規模は約5,000億ドルといわれ、コロナ禍前まで海上輸送量は毎年右肩上がりである成長産業でもあります。日本は世界第3位の海運大国で、貿易に占める会場貨物の割合は99.6%に至っている。そのような海運業が全世界的に自ら変化していく方法を求めているスタートアップにとって、海運業への参画は大きなビジネスチャンスになりえるのです。

海運の世界にはあまり馴染みもなく、外の世界に対して閉鎖的なイメージを持たれている方が一般的かもしれませんが、当社が介在することで、海運関連やその周辺領域に、広く深くアクセスが可能です。

当社の出資を通じて海運・海洋分野に深く参入したスタートアップ企業が、新しい技術や、デジタルスキル、ビジネスアイデアで変革の種を作り、我々は商船三井の経営資源をを通じ変革の社会実装を全力で支援する。そういった活動を通じ、新たな産業をスタートアップと企業とともに創っていこうと思っています。

MOL PLUSは商船三井グループからカーブアウトされた別法人のため、投資の意思決定においては本体とは異なるスピードで判断でき、出資後も細かいレポートを要求されることもなく、短期的なキャピタルリターンを追うこともしない体制になっています。

スタートアップとともに新たな事業を創り育てていくために、商船三井グループ内に、長期間にわたって一貫してスタートアップと向き合い、モノゴトに柔軟に対応できる体制を作るにはどうしたらよいかを考え、現在のストラクチャに至っています。

- MOL PLUSは、阪本さんが社内ベンチャー制度に応募したことから設立されたと伺っていますが、設立までの背景について教えていただけますか。

商船三井(MOL)は海運業を通じて、エネルギー資源や自動車など様々な製品を運ぶことで、人々の生活を支え、社会ニーズを満たしてきました。その過程で相当量のCO2を排出するという側面もあります。世界的に環境意識が高まっている中、MOLにとってESG経営の実現と真剣に向き合う中では「運ぶことと環境への負荷軽減の両立」や「運ばないビジネスの創出」が大きな経営課題になっています。

一方長年、海運という社会インフラを支え、守ってきた会社であるがゆえに、意思決定プロセスや、評価制度、社内のカルチャーはどちらかと言えば保守的で、変化を起こしたり、新たな事業を作ろうという発想は、通常業務の中からは生まれにくい。

会社が2020年に社内ベンチャー制度「MOL Incubation Bridge」の第1期募集が行われたのは、この状況を打破するぞ、という経営の思いがあったのだと思います。

社内公募があった当時の私は、入社8年が経ち、社会的意義の大きい仕事にやりがいを感じている一方、様々な経験を積んでいく中で、新しい価値への挑戦や変革への思いが大きくなっていました。そんな時期に社内ベンチャーを知りすぐ手を上げました。

新規事業のアイデアとして阪本さんが「CVC」を提案されたのはなぜだったのでしょう?

提案までの準備期間の当初、新規事業のアイデアを考えてみたのですが、経験してきた業務改善などの実務的アイデアは思いつくものの、MOLとして取り組む意義があり、マネタイズまで期待できる「勝てるビジネス」のアイデアはなかなか浮かびませんでした。

一人で煮詰まっていた時に相談した起業家の友人から、

新しい事業を作るのは、スタートアップ・起業家の仕事。MOLのような大企業であれば、自ら事業を生み出すことにこだわらず、スタートアップを支援しながら事業成長を促す役割を担うべきでは?

というアドバイスをもらい、ハッとしました。

調べていく中で、大企業がスタートアップ育成に取り組むCVCというビジネスモデルを知り、当時で国内でも100社ほど立ち上がっている一方、海運業界でCVCに取り組んでいる事例は一つもありませんでした。

そこからさらに多くのベンチャーキャピタルやCVCの方、起業家にヒアリングをしながら、CVCというアイデアについて海運業界からの意見も聞いて周りました。

100人近い方々とのディスカッションを通じ、海運業を営む企業が取り組むCVCのユニークネス、与えうるインパクトが理解できるようになり、自分が「やりたい」だけでなく、「MOLとして取り組む意義があり」、「ビジネスとしての勝算もある」と思い、社内ベンチャー制度を通じた社内提案に至りました。

スタートアップと伴走し頼られる存在になるには、「一旦、社内に持ち帰ってる」ようでは機能しないので、自分に一定以上の裁量権を与えてほしいと提案していたところ、結果的に自らがトップとして経営に携わることとなり、約1年の準備期間を経てMOL PLUSの設立に至りました。

マイノリティだからこそ、周囲に価値を提供できる

- 阪本さんご自身は、どのような幼少期を過ごされたのですか?

出身は大阪府吹田市で、奈良の高校に通い、京都大学に進学したので、大学までは近畿地方が生活圏でした。東京に出てきたのは社会人になってからでした。

小さい頃から、人があまり選ばないことを選ぶ子供だったと記憶しています。

小学校の時に、友達の間でプロ野球チップスの選手カード集めが流行った時期がありました。吹田市の一番人気はもちろん阪神タイガース。多くの友達は阪神の選手のカードを欲しがる中、「みんなと同じだと大変そう」となんとなく思った私は、当時強豪で多くの一流選手が在籍しているものの、友達の間で一番人気のなかったヤクルトスワーズのファンになると決め、ヤクルトの選手カードを集めることにしたんです。すると、多くの友達の趣向とバッティングせずカードの交換が簡単で、お金をあまりかけずに良いカードを集めることができましたし、みんなが欲しがる阪神選手のカードを気前よくあげることで友達から喜ばれるという体験を得ました。

子供だったので「低コストで良い調達をする最適な方法」という意識がどこまであったかわかりませんが、プロ野球チップスのカード集めは、「人と被らない選択をする」ことで成功を得られる原体験だったと思います。

その後、京都大学では理系の農学部に進学したのですが、食糧環境経済学科という学部内唯一の文系学科を選択しました。自分の興味関心がたまたまその領域にあったから、ということではあるのですが、「理系でありながら文系でもある」し「理系でも文系でもない」とも言える学科はとても珍しく、他者とあまり重ならない分野で、その位置付けに魅力を感じていたところはあったように思います。

- 新卒で商船三井を選んだ理由を教えていただけますか?

大学時代、国際的な農業経済を研究するゼミに所属していて、ベトナム、インドネシアなど東南アジアにフィールドワークに行く機会があったのですが、それはものすごく刺激的で楽しい経験でした。それで、就職を考えるにあたって「海外のビジネスができる」ことを最優先の条件にして、会社研究を始めました。総合商社や、海外展開している食品メーカーの仕事など興味深い仕事があることを知っている中で、島国日本の生活インフラを支えながら、世界を舞台にビジネスができる海運業にも興味が湧きました。商社やメーカーが企業によっては数百人規模の新卒入社を採用する中、海運業界は当時20-30人という知り、世界を舞台にしたグローバルな仕事を少数精鋭で担っているイメージは、「人と被らないものを選ぶ」私にとって一つの決め手になリました。

- キャリアの中でCVCでの社内起業につながった経験はありますか?

様々な出会いが出来事があって今に繋がっていますが、一つ挙げるとすると2015年からのシンガポール駐在の経験です。シンガポールでの仕事や生活を通じ、「人と違う選択が持つ相対的価値を活かすことの面白さ」に改めて気づき、「自分はマイノリティやニッチな存在になることへの心理的抵抗が低い人間だ」という自覚も深まりました。

ある時、中国ビジネスのコミュニティに参加してみたら、日本人は私だけで、日本の海運ビジネスの現場を知る機会がないからと、周囲の参加者から熱心に質問を受け感謝されるというようなことを体験しました。駐在期間中、他にも似たような場面と数多く遭遇し、異なる国籍、人種、考えが共存する社会では、異なる個人同士がお互いを尊重し、自身の強みを発揮しながら相互に吸収し合うという風土があることを体感しました。

日本の中にいると、自分は少数意見持っていても、コミュニケーションコストなどを考え、空気を読んで、多数意見のどれかに賛同しておこう、となったりします。

CVC活動を行うファンドは世界中にあまた存在しますし、海運業のプロも世界中にいますが、海運業に精通していながらスタートアップ支援をする、という存在は、極めて稀である。だからこそ、海運領域に挑戦するスタートアップにとって価値ある支援ができるMOL PLUSというCVCの強みは、この「マイノリティ」であり「ニッチ」な存在にあると思います。

私が「海運版CVC」という、アイデアを起案し、今、推進する立場にあるのは、シンガポールで得た、私自身の興味関心に対する気づきや確信が少なからず影響しています。

- 最後に阪本さんが考える、CVCキャピタリストに求められる資質や、ご自身の目標について教えてください。

CVCキャピタリストは「事業会社を使い倒すプロ」であるべきと思います。一方で、スタートアップの成長を支援していく上では、大企業的な考え方しかできない人間では務まらない。

「事業会社を使い倒す」ことが求められながら、事業会社のロジックで動いてはいけない、という、少し矛盾する状況を楽しみながら乗り越え、スタートアップ視点で価値提供できるできる人が、CVCキャピタリストとして活躍できるのではないかと思います。

私の個人的な目標は、MOL PLUSの活動や成果を通じ、商船三井の中に新たなことに挑戦するモメンタムを大きくしていくことです。

私は海運業という仕事が好きですし、物流で世界の経済を支えている非常に尊い仕事だと思っています。だからこそ、スタートアップへの投資や支援を通じて、次世代の海運業を作り出すことにチャレンジしています。それを実現するためにも、MOL PLUSに限らず、新たなことに挑戦する仲間が増え、その動きが大きくなることにも協力していきたいと思っています。

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