”地銀系VC”の枠を超えたスタートアップ支援。銀行の枠を広げる変革に挑む

.
.
インタビュー
大原 未流斗

FFG ベンチャービジネスパートナーズ


1988年生まれ。2010年、株式会社福岡銀行に入社。法人向けの融資業務に従事。2018年より株式会社FFGベンチャービジネスパートナーズでアーリーからレーターステージのスタートアップへの投資及び支援業務に従事。キャピタリストとして、FinTech、EC、宇宙、IoT、DeepTech等といった金融から最先端テクノロジー領域などの幅広いスタートアップを担当。

主な担当先企業(10社)
・Indygo
http://indygo.co.jp・オーマイグラスhttps://www.ohmyglasses.co.jp・お金のデザインhttps://www.money-design.com・QPS研究所https://i-qps.net・Kyuluxhttps://www.kyulux.com/?lang=ja・キュレーションズhttps://curations.jp・KOALA Techhttps://koalatech.co.jp/JP/・マネーツリーhttps://getmoneytree.com/jp/home・ペイトナー(旧yup)https://paytner.co.jp・モンスターラボホールディングスhttps://monstar-lab.com/jp/

”地銀系VC”の枠を超えたスタートアップ支援

- FFGベンチャービジネスパートナーズ(FVP)は、九州の地銀最大手である「ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)」のVC・CVCですが、同グループにおける位置づけについて教えて下さい

ふくおかフィナンシャルグループ(FFG) 九州を主な営業基盤として展開する国内最大級の広域展開型地域金融グループです。グループ傘下には、福岡銀行(福岡)、熊本銀行(熊本)、十八親和銀行(長崎)、みんなの銀行(デジタルバンク)があり、私が所属するFVPも含まれます。

「地銀系ベンチャーキャピタル」の枠にとどまらず、先端テクノロジー活用や新産業創出によるスタートアップエコシステムの構築に貢献することを志向しています。「九州地域」や「金融領域」に縛られているわけではなく、これまでに国内・海外の幅広い領域のスタートアップに投資を行っています。

- FVPの組織や、ファンドサイズの構成を教えて下さい

FVPが運営しているスタートアップ向けのファンドは、次の4種類です。

  1. 「VCファンド 100億円」
  2.  → 純投資を目的としたファンド
  3. 「CVCファンド 50億円」
  4.  → FFGとの事業共創を視野に入れたファンド
  5. 「FoFファンド 50億円」
  6.  →他のベンチャーキャピタルファンドへのLP出資を目的としたファンド
  7. 「九州オープンイノベーションファンド 約10億円」
  8.  →シードフェーズに特化したファンド ※GxPartnersと共同GP

現在、弊社のメンバーは28名で、そのうちキャピタリストは12名です。

ファンドサイズは計210億円以上、投資社数は計70社以上と地銀系VCとしては最大規模のファンド金額と投資社数です。

- 投資方針、Exit方針などについて教えていただけますか?

メインの投資ステージは、アーリーからレイター(シリーズA以降)の幅広いステージが対象です。

投資地域は国内及び海外も対象です。投資先地域のポートフォリオでは、東京60%、九州30%、その他10%の割合です。

チケットサイズの実績は30百万円~1億円で、フォローオン出資についても積極的に支援します。これまではフォロー投資が多かったですが、今後はリードも狙っていく方針です。

ファンド期間は10~15年で、ExitはオーソドックスにIPOかM&Aを想定しています。地銀VCの枠を超えた活動を加速化させるために、今後も新たなファンドや支援メニューを拡張させていく予定です。

- フルラインのスタートアップ投資体制は「地銀系の枠を超える」という本気度を感じます。大原さんはどのファンドを担当されていますか?

当初は純投資ファンドのチームに所属していましたが、2020年に新たに組成したCVCファンドを担当しています。

純投資ファンドは、財務リターンに重心を置いていて、投資領域はITからDeepTechと幅広くカバーしています。CVCファンドは、財務リターンに加え、FFGとの連携による双方のシナジー創出という戦略的リターンも含めた投資を担っています。

金融の力で、地元企業を支えたい

- 大原さんがFEGに参画される前の話を伺っても良いですか? 子供の頃や学生時代の話など。

私は生まれも育ちも、就職先も福岡なんですが、私はスポーツが好きで、小学校からボクシングを始めて、アマチュアの大会に出たりしていました。中学・高校時代は野球部でチームプレーの楽しさを知り、大学時代にはバックパッカーでアジアを中心に世界各国20ヵ国を旅行していました。

- 小学生がボクシングを習うイメージがあまり湧かないのですが、どんなきっかけがあったのでしょうか?

私は昔から負けず嫌いで、小学校3年生くらいに友達とオモチャのボクシンググローブをつけて遊んだときにボロ負けして、それが悔しくて(笑)。親に「ボクシングを習わせてほしい」と懇願した結果、プロがいるボクシングジムに通うようになりました。同年代で通っている人はほぼいませんでした。

中学校、高校では野球部で練習に打ち込みました。ソフトバンクホークスの2軍球場が実家から自転車でいける距離にあり、よく応援に行ってましたね。後にメジャーリーガーになった川崎宗則選手がまだ2軍にいた頃、バットをもらったこともありました。その有難みに気づかず、普通に練習で使用して折れてしまったんですが...(汗)

- ムネリンからもらったバットを折ったとは、大物ですね!
野球、ボクシング、バックパッカーなど学生時代を過ごしながら、将来の仕事についてはどんなイメージや、考えを持たれていたのでしょう?

学生時代から企業経営に興味を持っており、大学でも起業家や経営者が来て講義をしてくれる授業を積極的にとっていました。また、当時からスタートアップイベントにもよく顔を出していて、スタートアップと関わっていく仕事については興味関心を持っていました。

就職活動を始めた頃は、ちょうどリーマンショックが起きて景気が急激に冷え込んだ時期でしたね。各社の新卒採用が取り止めになるなか、私は幅広い業界を視野に入れて、約70-80社を受けました。その中で、企業の経営支援を通じて、社長と伴走していく銀行の仕事に興味を持つようになりました。

- 世界的な金融危機の影響が残っている時期の就職先に、銀行という金融業界を選択されたわけですが、どんな思いが大原さんにはあったのでしょうか‽

金融危機や景気の後退局面だったからこそ、銀行を選んだという部分はあります。リーマンショックの影響は九州の経済も少なからず影響を受けていましたし、新聞を見ても、多くの企業が倒産や、業績悪化に苦しんでいるという記事が連日掲載されていて。銀行業務に携わることで、そういう苦しい状況を少しでも支えることが出来るんじゃないか、企業経営をサポートするための知見を得られるのではと思うようになりました。自分にとって身近な地元や九州の経済に貢献できるということで、福岡銀行を選びました。

- 2010年の福岡銀行に入行後、2018年にFVPに移られるまでの仕事内容や、ご経験について教えていただけますか?

私は入行後、預金業務や、資産運用、住宅ローンなど銀行業務の全般を一通り経験しました。その後は法人企業に対する融資業務がメインでした。地元企業が中心で、製造業から建設業、サービス業、病院など、幅広い業種の企業様を担当させていただきました。私のカウンターパートが経営者だったので、経営者の目線からは何が課題でどういう戦略を考えているかという話を聞きながら、私自身も学ぶもことが多かったです。

既存の担当先への対応と、新規クライアントの開拓という、大きく二つのミッションがあるのですが、私は特に新規開拓が好きでした。今では推奨されないと思いますが、当時は、アポなしで取引のない企業に飛び込み訪問をして、新規取引を始めてもらいながら弊社グループのファンになってもらうことに楽しみを見出し、全力疾走していました。

当行がメインではない企業様に対して経営支援による有益なご提案をしながら、私は信頼関係の構築を第一優先で考えていました。

その後、経営者や従業員の方から感謝され、メイン銀行を切り替えていただけた時には、私の中でもお客様の新たな価値創造を提供できたと思い、大きなヤリガイを感じました。

その後、2016年にFFGベンチャービジネスパートナーズが設立され、私は大学時代からスタートアップに興味を持っていたので、FVPに参画できるチャンスがきた時には迷わず手を挙げました。

- 企業にとって「メイン銀行を変える」というのは大きな意思決定だと思いますが、新規先にはどんな働きかけをされていたのですか?

確かにハードルは高いですし、時間もかかります。

特にメイン銀行の変更は、経営層が決断を下すイシューであることがほとんどで、経営層との信頼関係を構築していくことが重要でした。そのためには、企業の財務内容や設備投資計画に沿った短期借入・長期借入のバランスの見直しや借換えのご提案をしながら、時には経営者の家族を含めた事業承継や資産運用面のサポートをしていました。親身になって泥臭く、経営者と共に悩みながら、最良な選択を後押しするパートナーになることが必要でした。ただ、私にとってそのような経験の積み重ねはとても学びも多く、自身が成長していく上で、貴重な経験でした。当時、担当していたお取引先企業の皆様には本当に感謝しております。

”過去を見て融資”から、”未来を見て投資”へ

- 銀行の融資業務から、スタートアップ投資を担当するFVPに移ったことで、どんな変化を感じられましたか?

正直、最初は途惑いましたね。銀行が融資を検討する際の与信判断では企業の「過去」を見ます。過去の業歴、業績等の財務状況や保全状況を見ながら、融資を行うのが常道です。

一方、VC業界ではスタートアップの経営陣や将来の成長可能性などを見て判断するため、この違いは大きかったです。スタートアップからの事業計画は精査しますが、それはあくまでも計画であって、融資と同じような判断ではVCとしての判断はなかなか難しい。

VCとしては目利き力が重要ですし、トレンドやテクノロジーの趨勢を見極めながら、情熱を持って経営者とともに伴走する楽しさがあります。

- 融資と出資の着目するポイントの違いを乗り越えて、アジャストするために、どういう対応をされたのでしょうか?

昔から関心の高い領域で仕事ができるようになり、なんとしてもアジャストしていきたいと思い、まずは起業家の方々やベンチャーキャピタルで活躍されているキャピタリストの方たちにコンタクトして片っ端から会っていただくということから始めました。

当初は知識もネットワークも何もなかったので、ありとあらゆるピッチイベントや、ウェビナーに参加しまくりました(笑)

2019年の上旬から、世の中がコロナウィルスでパンデミックになったことで、ピッチイベントがWEBでの開催がメインになっていったことで、日本全国のスタートアップ関係のイベントに出席することができるようになったことは、キャッチアップという面でプラスに作用しました。

スタートアップ界隈のコミュニティの中にいる人たちと会っていくと、順調に事業成長したり、苦戦しているスタートアップの模様が少しずつ見えてきて、それを他のキャピタリストがどのようにWatchしているのか、といったことについて、自分の中でも徐々に理解ができるようになっていった気がします。

- キャピタリストとしての業務の中身を教えていただけますでしょうか?

主なミッションは次の4つです。

  1.  新規投資先のソーシング活動 
  2.  担当先の支援        
  3.  銀行やグループとの協業支援 
  4.  イベント企画      

1、新規投資先のソーシング」では、ネットワークのあるベンチャーキャピタルからの紹介か、ピッチイベントの2つがメインのソース元になっています。紹介に関しては、会社同士の関係というより、キャピタリスト同士の個人的な信頼関係に基づいたものが情報の鮮度も高く、熱意のあるスタートアップの経営者に巡り会える確率が高い気がします。
交流のあるキャピタリストとは、相互に良い信頼関係を築き、維持していくために、付加価値のある情報提供や、定期的な面談をしています。カジュアルなコミュニケーションを通じて、投資の考え方、価値観などを共感し合うということも頻繁に行っています。

そういう意味で、ブルーサークルさんがやられている、FirstCVCに参加させていただけたことでコンタクトできる方の輪が広がったので、とても感謝しています!

2、担当先の支援」では、経歴に記載した10社を担当しています。スタートアップのステージや、出資ポーションによって、どの会議体に参加するかは異なりますが、経営会議、取締役会、株主報告会などに、参加して経営の状況を把握したうえで、キャピタリストとして若しくはFFGとして、何か貢献できることはないかと考えています。

- 投資判断に際して、重視しているポイントについて教えてください。

投資判断については、経営陣、マーケット、プロダクト、成長戦略、競合優位性、FFGとの連携可能性などを総合的に判断しています。

私のチームはCVCですので、投資に際しては、財務リターンだけでなく、FFG事業面との戦略的な事業共創の可能性という目線も常に持って、投資判断をしています。

FFGとのシナジーと言っても、Fintechに絞っているわけではありません。FFGがカバーしている融資、決済、預金、リース、送金などの高度化に資するスタートアップや、新しい領域で新規事業創出の可能性を感じる先などですね。今後は、Web3.0領域のスタートアップにも着目しています。

スタートアップの皆様は、限られたリソースの中でスピード感を持って急成長するために命懸けで全力疾走されています。無理に短期目線で協業を進めることは、スタートアップ側の成長を阻害する可能性もあります。

FFGの事業共創を創出できるかは重要なポイントにはなりますが、事業共創の実現のために無理にスタートアップ側に多くのリソースを割かせることや戦略変更を強いることは考えていません。FFGとのリエゾン役は我々FVPのメンバーが行います。

FFGを選んでいただくためにも、投資先スタートアップ様とは中長期の時間軸で、まずはお互いの信頼関係を築いたうえで、双方のシナジーを創出できるかという視点で考えています。弊社グループとしても第一にスタートアップファーストの気持ちが大事だと思います。

- スタートアップに対する、”FVPならではの支援”はどのようなものがありますか?

九州の金融機関としての強みを生かして、スタートアップと取引先企業をつなげるマッチングイベント「X-Tech Matchup(クロステックマッチアップ)」を開催しています。弊社の投資先であれば、優先的に参加することが可能です。これまでの実績として、約200社のスタートアップ、約1,400社の取引先企業が参加して、計1,100件以上の商談が実現しました。

投資先からは、FFGとの連携取引先企業の紹介デットファイナンスなど、幅広いご要望をいただきます。FFGでも、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを加速させるべく、こういった要望が出てきたときは、担当キャピタリストや専担チームが、銀行本体へ要望出しや、調整など、実現に向けた具体的な役割を担います。

今後は、成長支援、戦略策定、資金調達支援、IPO/M&A支援、人材支援までFFG グループ一体となったハンズオン支援体制を構築していきたいと考えています。

スタートアップとのパートナーシップで、
革新を生み出す

- FVPで働く醍醐味や課題など、お感じになっていることはありますか?

高い志を持っているメンバーと一緒に仕事ができていることにやりがいを感じています。CVCが目指す、FFGとスタートアップの協業はまだまだ少ないですが、それを通じて革新的なサービスを生んでいくということ本気で取り組んでいきたい。

そのためには、「過去を見る」伝統的な融資業務と、「未来を見る」スタートアップ投資という切り口から生まれるギャップ、今後スタートアップとの連携を進めるうえで、個人としても、組織としてもこれをどうハンドリングしていくかが重要だと思います。

弊社グループでは業歴の長い老舗企業との付き合いは長いのですが、創業したばかりのスタートアップとの繋がりがこれまで少なかったです、まずは事業共創する前の段階で、リスクを取って社会変革を目指している起業家をリスペクトすることが大事かなと思います。些細なことのようですが、そういった姿勢やボタンの掛け違えが起きないことが、FFGとの事業共創の可能性を高めていくことに繋がるのではないかと考えています。

それでも、私がFVPに来てからのこの3年余りでも変化は実感できています。自分たちだけでは生み出せなかったであろう、スタートアップとの共同商品や、コラボ企画などの実績が少しずつ積みあがっていくことが変化を牽引しています。

弊社グループでオープンイノベーションを進めるためには、トップダウンでの働きかけが必要になってきますが、幸い、弊社のトップもFFGの経営層も、CVCの活動に対する理解が深いです。自社だけでの新規事業や自社開発に拘らず、スタートアップが目指している方向(世界)に合わせにいくことで、スタートアップとの連携によるオープンイノベーションを促進することが必要だと考えています。

- 最後に大原さんが、今後挑戦したいと思っていることについて教えてください。

やはりスタートアップとFFGとのコラボによるイノベーティブな事業を生み出すことで共に成長していきたいです。FFGでは先鋭的な分野ではノウハウや知見がない分、銀行で長年培ってきたクレジットとリソースを提供するという関係で、スタートアップの皆様と新しい価値創造ができれば嬉しいです。

そのためにも、志や視座の高い起業家の方々と出会っていきたいです。新しいものを生み出すリーダーとして、誠実で、諦めず、チームや周囲を巻き込んでいく巻き込み力を持った方と一緒に新しい産業を生み出せるようなチャレンジをしていきたいです。

投資先スタートアップの成長に貢献できるように、キャピタリストとしてまだまだ成長したいというのが素直な気持ちです。また、FVPでの挑戦を通じて培った知見を活かして、FFGの中で失敗を恐れないチャレンジ精神やカルチャーをより未来志向に変えていけるような人材になれたらと思っています。

CVC同士の連携の面では、First CVCへの参加を機に、他社さんのCVCの皆さんとも信頼関係を築いていきながら、協調投資、投資先紹介、情報交換などさらに深めていきたいです。弊社の場合は、LP出資に特化したファンドもあるので、そういう形でも協力関係を築けることもあると思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします!

CONTACT

弊社の事業・サービスに関するお問い合わせや資料請求、
支援のご依頼、コミュニティ入会やイベント参加のお申し込みなど、お問い合わせ・資料請求・お申し込みはこちらからお気軽にご連絡ください。

CONTACT