がん保険のリーディング企業の顧客基盤を活かした新規事業+CVCで、日本の健康の未来を作る

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インタビュー
清藤 利郎Aflac Ventures Japan株式会社 投資部長

外資製薬企業(GSK・ ファイザー)の臨床開発部門にてがん、呼吸器等の領域の開発業務を経て、バイオマテリアルを医療機器として開発するバイオベンチャーにおいて欧州での製品開発業務を担当。その後、SBIインベストメントにてライフサイエンス/メディカル分野を中心にスタートアップ投資業務に従事。2019年6月より現職。

新規事業の推進とCVC機能を併せ持つ戦略CVC

- Aflac Ventures Japanについて教えてもらえますか。

Aflac Ventures Japan株式会社は、がん保険のリーディングカンパニーであるアフラックのグループ企業で、日本における保険事業、ならびに保険外事業とのシナジーが見込まれるスタートアップへの投資やスタートアップとの協業機会の創出に関する役割を担っています。

 

前身は2019年2月に設立されたアフラック・イノベーション・パートナーズ合同会社で、その後2022年1月からはアフラックの日本における保険外事業のインキュベーションを担うHatch Healthcare株式会社(ハッチヘルスケア:HH)を子会社として保有するAflac Ventures Japanとして新たにスタートをきり、スタートアップ投資と保険外事業のインキュベーションを両輪で回して新規事業の創出を加速に取り組んでいます。

(アフラックのグループ各社の関係を簡略化して図示)

また、当社では、スタートアップとアフラック生命保険株式会社(アフラック生命)やその子会社であるSUDACHI少額短期保険株式会社(SUDACHI)とスタートアップとの保険事業における協業機会の創出にも取り組んでいます。

Aflac Ventures JapanはアフラックのCVCである米国Aflac Global Venturesの100%子会社であり、アフラック生命とは直接の資本関係はないものの緊密に連携する関係です。アフラック生命とは人財に関する交流もあり、アフラック生命からの出向者がAflac Ventures Japanにて活躍するなどしています。

投資スキームや組織について教えてください。

スタートアップ投資を始めたのは2016年からです。ファンドの規模は400百万米ドルで、Aflac Global Venturesの子会社のAflac Ventures LLC.から投資しています。決められたファンドの満期はありません。

これまでに27社への投資を実行し、投資額の実績は100百万円~500百万円が多いです。

投資の手段と目的は、マイノリティー投資を通じての協業機会の創出がメインですが、事業買収の実績もあります。

Aflac Ventures Japanの組織に関しては、私が統括している投資部と企画部の二部署があります。 

投資部は、私を入れて5名体制で主に下記の2つの業務を遂行しています。

  1. スタートアップへの戦略投資
  2. かんぽ生命 - アフラック Acceleration Program

企画部ではAflac Ventures Japan、ならびに子会社であるHHの経営管理の役割を主に担っています。

新規事業を自らやるからこそ、投資から協業に繋がる

それぞれの業務内容について教えていただけますか

「スタートアップへの戦略投資」ですが、Aflac Ventures Japanでは、HHが推進するがんや介護に関する新規事業やアフラック生命やSUDACHIとの保険事業でのシナジーが見込まれるスタートアップへの投資を行っています。

HHによるがん領域の罹患後の取り組みの一例として、「ハッチのがん相談サポート」を提供しています。がん患者のご相談支援の経験がある看護師・社会福祉士等を中心に構成されたがん相談サポーターががん患者の悩みを傾聴したうえで、スタートアップ等の各種サービス(セカンドオピニオンなど治療支援、家事代行など生活支援)を無料/割引にて案内する内容です。この他にオンラインセカンドオピニオンの「Findme」とがん経験者コミュニティサイトの「tomosnote」を提供しています。

介護領域においては「くらしと介護サポート」をご案内するテスト運用を2023年5月開始予定で、在宅介護の課題を解決するサービスの提供をスタートアップと連携して強化したいと考えています。

この他、HHでは、現在100を超える健保/企業人事/自治体に「&Scan HPVセルフチェック」(子宮頸がんの原因であるHPVの自己検査)サービスを提供しており、今後スタートアップのヘルスケアソリューションのHHによる健保/企業人事/自治体向けの提案/販売にも力を入れる考えです。

保険事業においては、アフラック生命ではライフイベントを捉えるスタートアップとの連携や保険販売代理店の経営課題を解決するスタートアップのサービスの提供、SUDACHIでは少額短期保険のスタートアップとの共同開発といった各種施策に取り組んでいます。

Aflac Ventures Japanでは、スタートアップ各社と対話を通じて、上記の取り組みを念頭に協業の可能性を幅広に検討するよう努めていますので、是非お気軽にお問合せ頂ければと思います。

なお、スタートアップと我々との協業は出資直後からでなくても構いません。協業を始めるのにベストなタイミングと、投資するのにベストなタイミングというのは異なることも多いと思います。スタートアップの状況をしっかりと理解し、我々がやりたいこととスタートアップのやりたいことが重なるものはないかを検討することから始めます。「今すぐではないが将来的にこういうことができる」と我々の事業部門側からの後押しがあれば、十分出資が可能です。

もちろん、投資後に当初考えていた協業内容とは違う形での協業に至ることもあるかとは思いますし、我々としては当初の協業案に固執するのではなく、状況に応じてスタートアップと一緒に柔軟に考えたいとのスタンスであることも付け加えておきたいと思います。

協業の一例として、投資先であるメディカルノート社のオンライン医療相談サービスをアフラック生命の保険契約者向けに提供しています。

「かんぽ生命 - アフラック Acceleration Program」は、かんぽ生命とアフラック共催のアクセラレーションプログラムですが、アフラックが外資企業でありながら、非常に日本との関わりが大きいという背景から始まっています。

日本郵政は、アフラック生命の最終持株会社であるアフラック・インコーポレーテッドの発行済株式総数の7%程度を、信託を通じて保有しています。そのような資本関係に基づき、アフラックは日本郵政、日本郵便、かんぽ生命の日本郵政グループ3社と戦略提携関係にあり、その中で、かんぽ生命とスタートアップとの協業を通じた事業創出に共に取り組むべく2021年末から本アクセラレーションプログラムの検討を開始しました。 

本プログラムの内容ですが、スタートアップとかんぽ生命・アフラックによる協業を通じて、多様化/複雑化する顧客ニーズに応え、顧客体験価値の向上や、新たな事業の創出を目指すというものです。

2022年に実施した第一回は「ライフイベント」と「健康」をテーマに開催し、結果として80社のスタートアップからご応募いただき、そのうちの11社を協業協議先として採択しました。協業協議を踏まえての実績としては、現時点で8社との業務提携を実施/予定している状況です。

なお、2023年も「かんぽ生命 - アフラック Acceleration Program 2023」として第二回を実施します。テーマは「ヘルスケア/介護」と「保険」で3月22日から募集を開始しています。スタートアップの皆様には、ぜひご応募頂ければ思います。

(第一回アクセラレーションプログラムの三次選考(ピッチイベント)の様子)

投資対象となるスタートアップのステージや、ソーシング活動について教えてください

投資対象ですが、協業が投資の前提となるため、すでにプロダクトがあり売上が立ち始めている段階の方が検討しやすいです。

とは言いましても、我々の投資対象の事業ステージはオールステージです。まだ事例は少ないですが、今後アーリーステージへの出資を増やしたいと思っています。我々が初期ユーザーになって検証や成長を支援するという形もできると思います。シードラウンドやプレシリーズAラウンドの事業フェーズにあるスタートアップも投資検討の対象となりますし、積極的に対話させて頂きたいと考えていますのでぜひ遠慮なくお声がけ頂ければと思います。

なお、我々としては、スタートアップの経営と我々の取り組みたいことの間でコンフリクトを起こすことは避けたいと思っています。こういった考え方ですので、スタートアップに投資する際は、原則としてリードは取らず、取締役の派遣も行わないスタンスをこれまでは取っています。

ソーシング(スタートアップとの出会いの機会づくり)に関しては、年間250~300社ほど面談をさせていただいています。

戦略投資ではある一方で、オポチュニティとのバランスで投資活動は考えています。機会がないと戦略は進まないので、企業の株式の売却の機会やファイナンスのニーズがあるという機会に併せて戦略を組めるよう、常に頭は柔らかく、拒まず検討する姿勢で動いています。

実績としても、紹介を受けるケースよりも、メディアなどで見てコールドコール的にコンタクトしたところが多いんです。これは前職からの私のスタイルが足で稼ぐということも関係していると思います。日経や、スタートアップ向けの媒体、他に海外の媒体や、イベントに登壇するスタートアップを日々チェックしており、過去の資金調達の情報などを頭に入れておきつつ、スタートアップ各社に面談を申し入れるという感じです。

Aflac Ventures Japanの特徴や、出資を受けることで、スタートアップは何を期待できるのでしょうか。

アフラックは、がん保険における日本でのリーディングカンパニーです。がん保険のシェアは国内No.1で、約1,500万人の保険契約者がいます。

生命保険会社のCVCですので、いわゆるテクノロジーをグループとして有している訳ではありません。有しているのは保険の契約者という個人の顧客基盤です。だからこそ我々は顧客のことをまず考えます。

日本人の死亡理由のトップは「がん」ですし、アフラックの持っている事業基盤をスタートアップが活用することで、長寿大国である日本における新しい価値を生み出すことにつながるのではないかと期待しています。

介護領域では、高齢化が進む中、特に在宅での介護のニーズに応えるサービスを拡充していくべく、スタートアップと新しい価値の共創に取り組んでいきたいと考えています。

開発現場から、ビジネススクールを経てベンチャーに飛び込む

- 出身地や、清藤さんの小さかった頃について話を伺って良いでしょうか?

僕は鹿児島県出身で、高校卒業まで鹿児島にいました。部活はサッカーをやっていて、高校1、2年と大学時代はハードロックやヘビーメタル系のバンドをやっていました。メタリカ、アンスラックスなどを適当な英語で歌っていました。ずっとボーカルで、もう楽器は弾けないのですが(笑)
漫画やアニメも好きでしたね。特に印象に残っているのは、「ファイブ・スター・ストーリーズ」ですかね。

大学時代は、東京工業大学で生命科学を専攻していました。ロケットをつくるという先輩がいて、尊敬していたその先輩が東工大に行くと聞いたのがきっかけでした。高校3年の時に、機械工学より受かりそうだ、という理由で高校3年で生命科学に変えました。修士を含め、計6年間通いました。サイエンスが好きだったので、サイエンスにかかわって人の健康にかかわる仕事と思い、そこで製薬企業の臨床開発を志望しました。

- 社会人になってから、今に至るまでどのような経緯があったのでしょう?

最初に、グラクソスミスクライン(GSK)という英国系の製薬会社に入り、臨床開発の仕事を7年やっていました。創薬における治験デザインなどを考える仕事ですね。

その後、製薬業界の団体活動での縁で、ファイザーから誘われてそちらに移りました。対象となる病気の種類は違うものの、仕事内容はGSKと同様でしたので、トータルで創薬という専門性の高い仕事を約10年経験しました。ファイザー在職中には、臨床試験のデザイン設計や解析手法に関する専門性を高めるために医薬統計の修士を取るために大学院に社費で通ったりもしました。

製薬企業での臨床開発の仕事には、患者のために貢献できるということでやりがいを感じていました。

ただどちらも大きい組織で、臨床開発の中でもいろんなファンクションがある。専門的な10年経験する中で、よりビジネス寄りの業務に携わりたいと考えるようになりました。そういった中で、30代半ばで思い切って留学に向けた勉強を始め、1年後にはスペインのビジネススクールであるIE Business SchoolにMBA取得のために留学しました。IE Business Schoolは欧州ではトップスクールとして認知されている学校で、日本からの卒業生にはスタートアップやベンチャーキャピタルの仕事に携わっている方が多くいます。

- スペインでの留学経験で、視野が広がり、次のキャリアにつながったのでしょうか?

実は留学で視界が広がったという感じはあまりないです。ビジネススクールは、視野の広い人ならさらにいろんな気づきがあるかもしれませんが、もともと視野が狭い人が行って視野が広くなるような場所ではないのではと思っています。なので、実は留学で自分が大きく変わったという自覚は全くないです(笑)。

人生経験としてはいいですが、仕事面で視野を広げられるのは仕事の現場だと思っていたので、これまでとは違う広い業務範囲が任せられるようなベンチャー企業に行きたいなと考えました。スペインでのクラスメイトの友人や、昔の上司が経営陣いたこともあり、そのような縁もあり、帰国後、医療機器を扱う、バイオテクノロジーのスタートアップに入社しました。

上場して3カ月経った時期で、それから5年弱の在籍中に、欧州向けの製品開発を軸とした事業開発や知財、原材料の調達などを一通り担当しました。研究開発職からビジネス寄りに業務内容がシフトし、スタートアップだったこともあり担当範囲も広く新鮮で面白かったです。やっていくうちに、もっといろんなテクノロジーやサービスに触れていくほうが自分の性に合っているなと気づくようにもなりました。

そこで、バイオテック領域のスタートアップ投資を担当できるということで、2016年にSBIインベストメントに移りました。

- スタートアップからVCに移られたのも大きなキャリアチェンジのように思いますが、どういう気持ちの変化があったんですか?

専門職の高いところからビジネスサイドへ網羅的にやらなければいけない役割をこなし、会社でビジネスの全体を見れる立場からさらに視点がさまざまな企業の事業をテクノロジーなりに触れられる機会へと、知的好奇心によって選択をしているのかもしれません。

SBIではバイオテック領域をほぼ一人で担当しており約3年間で、医療機器や創薬のスタートアップを中心に15社、金額にして80億円ほどの投資をしました。うち44社ほど上場を果たしています。投資先のうち3社がアメリカのスタートアップでした。

今では経営者は大切だと思うようになりましたが、当時は「この経営者に会いたい」というよりも、テクノロジーベースで興味を持った先にコンタクトしていました。例えば、大学の先生が持っているテクノロジーとアライアンスを活用して会社を成長させていくというような「戦略」への納得感を重視する感じです。

- Aflac Ventures Japanへの参画のきっかけはなんだったのでしょう

SBIのVC業務をしていく中で、投資先の様々なサービスが成長することを応援するのが自分には合っていると気づきました。その一方で純投資はあまり肌に合わないとも思いました。

純投資ではなく、いろいろな技術やサービスを持っているスタートアップを支援しつつ、医療や健康のインフラになるような取り組みをスタートアップと一緒にやっていく、そんな取り組みができることに魅力を感じ、2019年6月にアフラック・イノベーション・パートナーズに3人目のメンバーとして参画しました。

- CVCという仕事で成し遂げたいことや、キャリアパスについてどのように考えていますか?

勢いのあるスタートアップが、大企業やメガベンチャーが持っているリソースや、経営資源や、協業などの機会をうまく活用して、社会的にインパクトがあることを生み出していく、そんな仕事をできればいいと思っています。そういう環境を作ることで、どんどん起業が増えるようになれば良いなと思っています。

キャピタリスト個人レベルでいうと、目的や景色はいろいろあっていいのではと思います。CVCはソーシングするだけではなく、事業部側を常に考えなければいけなくて、マルチにいろんなことを回せる人が重宝されるとは思います。

CVCキャピタリストのキャリアという意味では、CVCで頑張り続けることも面白いですし、スタートアップに移ってもいいと思います。我々のように自分たちで作った事業があれば、そこにどっぷり入るのも面白いですし、M&Aを通じて投資先の経営に深く関与することもあるかもしれない。キャリアのオポチュニティを広げる意味でも、面白い仕事なのではと思います。

- CVCキャピタリストとして、どんな企業と出会っていきたいでしょうか?

アフラック生命はCSV(Creating Shared Value)経営というものをうたっていて、経済性のみならず高い倫理性も求める会社です。

CSV(Creating Shared Value)経営とは、「共有価値の創造」を軸とした経営のことです。共有価値とは、経済的価値(利益の獲得)と社会的価値(社会的課題の解決)を両立することを指します。

米国の経営学者マイケル・ポーターとマーク・クレーマーが、2011年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌を通じて論文「The big idea: Creating Shared Value」を寄稿したことで注目を集めました。社会問題を解決しながら経済的利益を促進する方法を概念化するうえで大きなブレークスルーを引き起こし、その影響を受けたいくつかの企業はCSVの実践とレポートの作成を開始しています。

我々は、がんや介護、生命保険という文脈で、がんの患者や介護を受けている方、あとはその家族に向けたサービスや事業を一緒に考えています。人々の健康、生活の向上や社会を良くする「熱い思い」を持っている方々や、がんや介護の分野をどんどん発展させていくようなテクノロジーを有する企業とご一緒しながら、支援したいと思っています。

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